善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

師走の京都歌舞伎見物② 先斗町歌舞練場

2日、3日と京都に滞在し、師走の風物詩「吉例顔見世興行・東西合同大歌舞伎」を観る。
2日は第3部、演目は「双蝶々曲輪日記 引窓」「京鹿子娘道成寺」。

顔見世興行は例年、南座で開催されているが、休館中のため三条大橋橋詰の先斗町歌舞練場に会場を移して開催中。
劇場は変わっても南座での“まねき”看板の伝統は引き継がれ、南座の正面に役者の名前が入ったまねきと邦楽連中まねきが掲げられてあった。下には絵看板も。
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南座から四条大橋を渡ってすぐ右手、花街の名残を残す先斗町通りは石畳の細い小道になっていて、飲食店が軒をならべている。通りには赤い提灯がいくつも。
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通りを北上して鴨川沿いの三条大橋近くにあるのが先斗町歌舞練場だ。
正面入口の真ん中に「當る酉歳 吉例顔見世興行」の文字が書かれた“興行まねき”が掲げられてあった。
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先斗町歌舞練場は花街にある劇場として知られ、「鴨川をどり」の会場となったり、芸妓・舞妓のための歌や舞踊、楽器等の練習場ともなっているようだ。
1927年(昭和2年)の建築で、劇場建築の名手といわれた大林組の木村得三郎が設計。とてもレトロな感じの建物で、昭和の香りを漂わせている。
外壁は「宝相華」(唐草模様の一種で吉祥をあらわす文様)をあしらった模様タイル。
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正面入口の上から客を迎える鬼瓦は、舞楽で使われる蘭陵王(らんりゅうおう)の仮面を模している。
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蘭陵王は川に棲む龍王の化身ともいわれ、この仮面をつけた舞いは雨乞いの舞いともいわれるそうだ。たしかに、よく見ると頭上には龍がいる。

両脇に鼓があるのが歌舞練場らしい。
聞くところによると、先斗町には地名伝説があって、それによるとここは鴨川と高瀬川にはさまれた地域。つまり川(皮)と川(皮)にはさまれた鼓のような土地であり、鼓は叩くとポンと鳴るので「ポンと町」というのだが・・・。
しかし、先斗町の由来としてはポルトガル語ponta(「先」の意)からきているという説があり、こっちのほうが有力らしいから、「ポンと鳴る」はダジャレっぽい。
でも、蘭陵王先斗町の繁栄を祈念して守り神として据えたのは確かだろうし、歌舞練場だというので鼓を添えたのも花街らしくていい。

歌舞練場の中に入るとレイアウトがちょっと変わっている。
普通、劇場というと、入口から入ってまっすぐ進んで客席となり奥は舞台と続くものだが、ここは入口から入ると左に曲がって客席となり、左前方が舞台となる。つまり、西から東へ入口・ロビーと続く一方、舞台も西から東向きになっていて、入口ロビーと舞台・客席が並列している。観客は鴨川を背にして入口の方向である先斗町通に向かって舞台を見る形になる。
西側の通りに面していて南北に長く東西は狭い土地を有効活用しようとした工夫の結果なのだろう。
したがって舞台のうしろは先斗町の通りで、舞台の裏の扉は先斗町通りへの荷物の搬入口となっている。

入口ロビーには、ご贔屓筋からだろう、贈り主の名前と役者の名前が書かれた木札が並んでいる。これは「竹馬」というらしいが、東京では見たことがない。南座の(今回は先斗町だが)顔見世興行ならではのものという。
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会場に入ると、たしかにこじんまりとしている。それがかえって親しみやすさを演出している感じがする。
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劇場の大きさを比べると、東京の歌舞伎座は1808席、舞台間口は約27・5mあるが、ここは客席542席と3分の1の規模。しかし、間口は約22・5mあり、歌舞伎座と比べてそれほど小さいわけではなく、南座より広いという。
ということは、演技は十分のびのびとできて、なおかつ舞台と客席は接近している、ということだろう。

座った席は1階席の前から3番目だったが、舞台全体がよく見えると同時に役者を間近に見ることができ、シアワセな夜だった。

1幕目は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)引窓」。
南与兵衛を仁左衛門、女房お早は孝太郎、母お幸は吉弥、濡髪長五郎は彌十郎
仁左衛門はなかなか東京にやってこないので、7月にも大阪松竹座まで仁左衛門を見ようと遠征しており、なんだか“追っかけ”の気分。
十五夜のころ、月の明かりをとり入れる引窓を小道具仕立てにした親と子、亭主と女房をめぐる人情ドラマ。もともと文楽の作品だが、話自体もいい話。となれば仁左衛門にピッタリ。ただただうっとり見入るばかり。

2幕目「京鹿子娘道成寺」は「鐘供養より押戻しまで」で、白拍子花子に五代目を襲名した雀右衛門(今回の顔見世興行は五代目襲名披露公演でもある)、大館左馬五郎に海老蔵

「押し戻し」とは、独特のいでたちの勇者が怨霊や妖怪の前に立ちふさがり、その行く手を阻むという役や演技の総称だそうで、“荒事(あらごと)”と呼ばれる江戸の歌舞伎の特徴の一つ。今回、大館左馬五郎をやる海老蔵はまさに適役。

さっきまで美しく踊っていた白拍子雀右衛門は実は蛇になった清姫の化身で、鐘の中からすごい形相で出てくる。お嬢さまが一転して怖いモノノケに。
このモノノケを成敗しようとあらわれたのが大館左馬五郎で、こちらもモノノケに負けないぐらいスゴイ顔。
久々に海老蔵のニラミも見られて楽しい一夜となった。

芝居がハネたあとは、京都在住の友人が劇場入口で待っていてくれて、行きつけの先斗町のおばんざい屋さんに連れていってもらった。
何でも司馬遼太郎もよく利用した店だそうで、彼の書が飾ってあった。
東京では食べられない京のおいしい料理に伏見の酒を堪能し、二条城近くのホテルに帰還。

明日(3日)は午前中紅葉をみて、午後の第2部をみる予定。(続く)