善福寺公園めぐり

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きのうのワイン+映画「コレクター 暴かれたナチスの真実」「スノーデン」

イタリア・トスカーナの赤ワイン「ジンガリ(ZINGARI)2018」

トスカーナでワインづくりを行っているペトラのワイン。

「ジンガリ」とはイタリア語で「ジプシー(ロマ)」のこと。歌劇「カルメン」のジプシーの歌と踊りのように、歌って踊り出したくなるようなワインという意味が込められているのだろうか。

メルロ、シラー、プティ・ヴェルド、サンジョベーゼをブレンド

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していたオランダ映画「コレクター 暴かれたナチスの真実」。

2016年の作品。

原題「DE ZAAK MENTEN」

監督ティム・オリウーク、出演ガイ・クレメンス、アウス・グライダヌス、ノーチェ・ヘルラール、カリーヌ・クルツェン、アリアン・フォッペンほか。

オランダ屈指の大富豪は実はかつてナチスと結託してユダヤ人虐殺を働いた戦犯だった――。執念の調査報道で真実を明らかにしようとするジャーナリストの姿を描く。

 

1976年、オランダ・アムステルダムの雑誌記者ハンス・クノープ(ガイ・クレメンス)のもとに1本の電話が入る。話の内容は、アートコレクターとしても知られる大富豪のピーター・メンテン(アウス・グライダヌス)が第2次世界大戦中、ナチスドイツの将校らと結託し、ユダヤ人たちを大量虐殺してその財宝を巻き上げた、という驚くべきものだった。

当初は半信半疑だったクノープだが、当時の証人たちを探し出して取材を進めるうち、紛れもない真実だと確信。次第にメンテンを追い詰めていく。

戦後約30年、巨大な富と名声を手に入れ「自分は多くのユダヤ人たちを救った」と語るメンテン。温厚そうな白髪の男は、はたして残忍な大虐殺を行ったその人物なのか・・・。

 

原題の「DE ZAAK MENTEN」とは「メンテン事件」という意味。日本人は知らないがオランダでは有名な事件であり、テレビのミニシリーズで放送され人気となり映画化された作品。

 

メンテンはオランダでも指折りの大富豪として知られた人物。ビジネスで成功し広大な不動産を所有する実業家であるとともに、美術品収集家としても有名で、20部屋もある彼の邸宅は貴重な芸術作品で満たされていたという。

そんな彼が、第2次世界大戦中、ユダヤ人を大量虐殺する恥ずべき犯罪を犯していたという。彼はドンツ人でもなくナチスの一員でもなくオランダの商人にぎなかったはずなのに、なぜそんなことになったのか?

ロッテルダムに生まれたメンテンは、父親のビジネスのコネでポーランドに興味を持つようになり、24歳のとき、現在のウクライナに近いポーランドの東ガリツィアに移り住んでオランダ製品をポーランドに輸出する事業を始めたという。その地で事業を拡大して裕福な地主兼実業家となる。

熱心にビジネスを展開した彼だったが、ビジネス上の問題で近隣のユダヤ人と衝突を起こし、深い恨みを抱くようになったという。さらに、ここの住民はもともとウクライナ人で多くが農民であり、少数のポーランド人貴族が大半の土地を所有していたという歴史的経緯もあり、ロシア革命後、ソ連軍が攻めてきて一時ソ連の領土となり、彼の財産は没収されてしまう。そのことにも彼は恨みを募らせていったようだ。

その後、ナチスドイツがソ連への攻撃の一環としてソ連の占領下にあったポーランド東部に侵攻を開始。最終的にナチスドイツはポーランド全土を占領するが、この地域に土地勘があり、言葉も堪能で知己も多いメンテンは通訳として同行するようになる。

そればかりではない。ソ連への恨み、ユダヤ人への恨みを持つ彼はナチ親衛隊の一員となってユダヤ人虐殺と財産の強奪に関与する。彼は以前から恨みを抱いていたユダヤ人家族を処刑し、その残忍さはほかのユダヤ人にも向けられていって、何百人ものユダヤ人と共産主義者の虐殺を自ら監督したといわれている。

 

ところがメンテンは戦後になって、おぞましい戦争犯罪を問われることはなかった。それはなぜか?

彼が大量虐殺に関与した地域は、戦後はソ連領になったり社会主義化して西側からの犯罪捜査や追及が難しかったこともあるようだ。

メンテン自身も狡猾で、奪った美術品を3両の貨車に乗せてオランダに向かう途中、オランダのレジスタンスに捕まり裁判にかけられるが、オランダの国会議員で下院議長でもある弁護士を立てて、ほとんどの告発から免れることに成功。その当時は大量殺戮への関与については何も知られていなかったため、ナチスの通訳として制服を着て働いたとして8カ月の禁固刑をいい渡されだけですむ。8カ月というのは公判前の留置期間と同じぐらいだったので間もなく釈放され、自由の身となっている。

免罪された彼はその後、実業家として成功し、大富豪へとのし上がっていく。

 

そんなメンテンを追い詰めたのが、一人のジャーナリストの執念だった。

雑誌の記者だったハンス・クノープはユダヤ系のオランダ人で、ほとんど孤軍奮闘という感じでメンテンの戦争犯罪を暴いた。地道な調査報道の過程が克明に描かれているのが本作でもある。

彼は、メンテンの富と名声をチラつかせての甘い言葉や、さらには恫喝にもめげず調査を進めていく。カメラマンとともに今はソ連領となっている虐殺の現場に赴き、遺骨の発掘に立ち会ったり、当時の目撃者の証言を得ることに成功。帰国して証拠を集め、メンテンを少しずつ追い詰めていくが、いよいよ逮捕という段になってメンテンが国外に逃亡すると、ドイツの雑誌社に協力を求めて潜伏先を突き止め、逮捕につなげる。

裁判になってからも、仲間の裏切りや、重要証人からの証言拒否にあいながらも、動かぬ証拠を探し出したりして、追及をやめない。最後には雑誌社を辞めざるを得なくなるが、自分のキャリアを捨ててでも「真実」を明かそうとするのだった。

調査報道をちゃんとやってるの?と最近とみに心配な日本のジャーナリストたちに見せたいような映画だった。

 

ついでにその前に観た映画。

NHKBSで放送していたアメリカ・ドイツ・フランス合作の映画「スノーデン」。

2016年の作品。

原題「SNOWDEN」

監督・脚本オリバー・ストーン、出演ジョセフ・ゴードン・レビット、シャイリーン・ウッドリー、メリッサ・レオ、ザッカリー・クイント、ニコラス・ケイジほか。

アメリカ政府による個人情報監視の実態を暴いた元アメリカ国家安全保障局NSA)の職員、エドワード・スノーデンの実話を描いた作品。監督・脚本は「プラトーン」「JFK」なども手がけたオリバー・ストーン

 

2013年6月、イギリスの新聞ガーディアンが報じたスクープにより、アメリカ政府が秘密裏に構築した国際的監視プログラムの存在が発覚する。ガーディアンにその情報を提供したのは、NSAの職員である29歳の青年エドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン・レビット)だった。

国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、なぜ輝かしいキャリアと幸せな人生を捨ててまで、世界最強の情報機関に反旗を翻すまでに至ったのか。テロリストのみならず全世界の個人情報が監視されている事実に危機感を募らせていく過程を、パートナーとしてスノーデンを支え続けたリンゼイ・ミルズ(シャイリーン・ウッドリー)との関係も交えながら描き出す・・・。

 

アメリカ政府は、世界中で電話を盗聴し、メールやSNSなどの通信を傍受。それを諜報活動に利用していた――。何とも背筋の凍るような話だが、この事実を告発したのが、NSAやCIA(中央情報局)の一員として実際にその秘密の諜報活動に携わった当人であるスノーデンだった。

彼は自分や恋人までもが監視対象になっていて、すべての個人情報が盗み見られているのを知り、その行きすぎた行為に疑問を抱くようになってついには内部告発に踏み切る。

もともと彼は、対テロ戦争によりアメリカ軍が人員増加をしている中、軍隊に志願入隊するほどの愛国者だった。しかも、個人情報収集の活動に自ら加わり、システム開発にも携わっていたのに、そんな彼がなぜ内部告発するに至ったのか。

映画の中で彼はいっている。

アメリカ政府は、テロ対策のために極秘の諜報活動をしているといっているが、そんなのはウソだ。テロ対策はあくまで口実で、世界を支配しようとするのが目的なんだ」

国を愛する気持ちがあるからこそ、自分の国の政府が世界中で行っている覇権主義的な不正行為が許せなかったのだろう。

 

ほかの映画なら主役を演じるニコラス・ケイジがチョイ役で出演していた。スノーデンを後押しする“オタク”っぽいエンジニア役だ。オリバー・ストーンが監督するというので“友情出演”を買って出たのだろうか。

 

映画を見ていて驚いたのは、彼は日本でも諜報活動を行っていたことだ。

彼はNSAの仕事を請け負うコンピュータ会社のデルの社員として来日し、東京・福生市で2年間暮していた。

勤務先は米空軍横田基地内にある日本のNSA本部。NSAアメリカ国防総省の情報機関であり、国防長官が直轄する組織。CIAが主にスパイなど人間を使って諜報活動を行うのに対して、電子機器を使った情報収集・諜報活動を行うのがNSAであり、デルを下請けにしてスパイ活動の隠れ蓑として使っている。

映画では、日本の通信網を支配し、送電網やダム、交通機関などインフラ組織をコントロールする「スリーバー・プログラム」を仕かけていた、という本人の告白場面がある。日本列島の南から街の灯が次々と消えていき、すべてが真っ暗になる映像にダブるスノーデンのセリフ。

「日本が同盟国でなくなる日がきたら、消灯・・・」

本作を監督したオリバー・ストーンが映画の公開前に来日してインタビューで答えたところによると、このセリフはどこまで真実かの質問に「ぼくは彼(スノーデン)が語ったことはすべて真実だと考えている」と語っている。

そしてストーン監督はこうも述べている。

NSAは当初、すべてを監視したいと日本政府に申し入れたが、日本政府は拒絶したという。しかし、それでもかまわず盗聴・監視し、民間のさまざまなネットワークにプログラムを仕込んでいた、と彼は語っていた」

さらにストーン監督は続ける。

「日本を含めアメリカの同盟国といわれる国々は、ぼくは現実には同盟国ではなく、『アメリカに人質をとられた国』だと思っている」

 

スノーデンが日本から去ったあと、2013年12月には、安倍首相のもと、アメリカとの軍事情報の共有を進めるため国家安全保障会議(日本版NSC)が発足。特定秘密を指定して漏洩を厳罰にするとした特定秘密保護法が国会で強行採決される。

この法律はアメリカ政府の強い意向を受けて制定されたといわれている。この法律を後ろ楯にすれば諜報活動はやりやすくなり、より機密性の高い情報を共有できるようになるというのだが、その結果、国家秘密ばかりが増殖していって民主主義はおざなりになっていく。

ちなみにスノーデンの内部告発に対する日本の政府の反応はどうだったか?

当時の安倍政権下の菅官房長官「米国内の問題なので米国内で処理されるべきだ」

2015年7月には、内部告発サイト「ウィキリークス」が、NSAが少なくとも2006年ごろから日本の内閣、日本銀行財務省などの幹部の盗聴を試みていたとしてアメリカ政府の文書を公開。同様にしてNSCに盗聴されていることを知ったドイツのメルケル首相はアメリカのオバマ大統領に抗議したが、日本の安倍首相は抗議ひとつしない。これでは「日本はアメリカに人質をとられた国」と語るオリバー・ストーン監督の言葉どおりではないかと、ガッカリするばかりだ。