善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「遠い夜明け」「シリアナ」「ボブという名の猫~幸せのハイタッチ」

スペイン・カタルーニャの赤ワイン「サングレ・デ・トロ・オリジナル(SANGRE DE TORO ORIGINAL)2021」

(写真はこのあとメインのタンドリー・チキン)

スペインのバルセロナの近郊、ペネデス地方でワインを造り続けて150年以上という歴史を持つワイナリー、トーレスの赤ワイン。

ボトルにつけられた牡牛のマスコットがトレードマーク。

スペイン原産のガルナッチャとカリニャンをブレンドし、まろやかでバランスのとれた味わい。

 

ワインの友で観たのはNHKBSで放送していたイギリス映画「遠い夜明け」。

1987年の作品。

原題「CRY FREEDOM」

監督リチャード・アッテンボロー、出演ケビン・クラインデンゼル・ワシントン、ペネロープ・ウィルトンほか。

1970年代、黒人を蔑視し白人支配を正当化するアパルトヘイト(人種隔離政策)下の南アフリカで、人種差別と闘った白人ジャーナリストのドナルド・ウッズと黒人運動家スティーブ・ビコの信念と友情を描く実話をもとにした社会派&サスペンス・ドラマ。

 

ドナルド・ウッズ(ケヴィン・クライン)は南アフリカのジャーナリストで、新聞社の編集長を務める裕福なリベラル派の白人。ビコと会う前は彼を白人差別の扇動者だとして批判していたが、実際に交流を始めてからは友人となり、ビコの活動を支持するようになる。

一方のスティーヴ・ビコデンゼル・ワシントン)は草の根的な人種差別反対運動の活動家。1960年代から70年代の南アフリカでは、政府の容赦ない弾圧により反アパルトヘイトの指導者は次々に逮捕・監禁されたり殺されたりして、指導者のいない暗黒の時代だった。のちに黒人初の大統領となるネルソン・マンデラは1962年に逮捕されたまま27年間にわたり獄中にあった。そんな中にあって、ビコはまだ弾圧の手が届いていなかった医学生として声を上げ、指導者のひとりとなった。

彼には妻と幼い2人の子どもがいたが、警察に拘束されたあと、拷問によって30歳の若さで死亡する。のちになって当時の南アを支配していた国民党政府は「アパルトヘイトを延命するために彼を殺さねばならなかった」といっているという。

 

映画は前半、2人の出会いから始まって、白人支配下での黒人弾圧の実態と1977年にビコが逮捕されその後、獄死するまでが描かれるが、後半は一転してサスペンスタッチ。ビコの死からしばらくして、ビコの死の真実を明らかにしようとするウッズの国外逃亡が描かれ、手に汗握る展開となる。

 

ビコの死後、ウッズは要注意人物として自宅軟禁下に置かれ、仕事や旅行、執筆、公の場での発言が禁じられ、ついには命の危険まで及ぶようになっていった。電話を盗聴され、家族を脅され、命の危険は自分だけでなく妻と5人の子どもにまで及んでいると察した彼は、家族を連れての国外への逃亡を決意。

ビコの死とアパルトヘイトの実態を書いた原稿を携え、家族とともに密かに亡命についての計画を練った彼は、神父に変装して監視の目をかいくぐって家を出て、仲間の協力を得て最も近い隣国のレソトまで逃げ込む。そこに旅行と偽ってやってきた妻と5人の子どもたちと合流。途中、何度もあわやのところを辛くも逃げ切って、無事、ボツワナ行きの飛行機の搭乗に成功し、イギリスに亡命。このとき彼は44歳だった。

 

映画のエンディングは、アフリカの広大な大地をバックに、抵抗の歌であり今は国歌となっている「コシシケレリ・アフリカ(アフリカの歌)」のBGMが流れる中、ビコも含めて拘禁中に亡くなった反アパルトヘイト活動家たちの氏名、没年、享年、政府発表の死因が次々と示される。首吊り自殺、てんかん,建物からの転落など、死因はすべて政府の都合のいいようになっていた。

 

ウッズはその後どうなったか。イギリスに亡命した翌年の1978年、ビコとの交流を描いた「ビーコウ アパルトヘイトとの限りなき戦い」を出版。これとほかにも書いた著作をもとに1987年、映画「遠い夜明け」が製作され、彼は妻とともに製作顧問を務めた。

アパルトヘイトを訴える国内外の声に押されて、南ア政府がようやく方針を転換してアパルトヘイトの撤廃に動き出し、非合法だった黒人らの政党を合法化してネルソン・マンデラを釈放したのが1990年のこと。ウッズはその年の8月、13年間の亡命生活を終えて祖国に帰国。アパルトヘイトが正式に撤廃されたのは、マンデラが大統領に就任した1994年だった。

ウッズはイギリスと南アを行き来しながら若いジャーナリストの養成に尽力したが、彼の最後の南ア訪問は2001年5月、スティーブ・ビコの息子、ンコシナティ・ビコの結婚式に出席するためだったという。その年の8月、がんのためロンドンで死去。67歳だった。

日本にも1988年に訪れていて、講演したり、メーデーのデモに参加したりしたらしい。

 

ついでにその前に観た映画。

民放の地上波で放送していたアメリカ映画「シリアナ」。

2005年の作品。

原題「SYRIANA」

監督スティーブン・ギャガン、出演ジョージ・クルーニーマット・デイモンジェフリー・ライトクリス・クーパーウィリアム・ハート、マザール・ムニールほか。

中東地域を担当していた元CIAスパイによるCIAの謀略の実態を暴く告発本「CIAは何をしていた?(原題SEE NO EVIL)」を映画化。

出演と製作総指揮を務めたジョージ・クルーニーがアカデミー助演男優賞ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞した。

 

CIA工作員、アラブの王族、米国の石油企業、イスラム過激派テロリストら石油利権の周辺にうごめく人間たちの運命をドキュメンタリータッチで描いた作品で、中東の架空の国「シリアナ」を舞台にしたサスペンス。

登場するのは、引退を考えているCIA工作員バーンズ(ジョージ・クルーニー)、スイスを拠点に活動するエネルギー業界のアナリストであるウッドマン(マット・デイモン)、ワシントンの弁護士事務所で働く弁護士ベネット(ジェフリー・ライト)、中東で働くパキスタンからの出稼ぎ労働者ワシム(マザール・ムニール)。この4人の物語がやがて1つにつながっていく。

シリアナでは、王位継承者であるナシール王子が国の民主化と米国メジャーの不当な支配からの脱却を考えていて、顧問として雇ったウッドマンからの助言を得てアメリカ1国に依存しない政策を推進しようとしていて、自国の天然ガスの掘削権をアメリカ資本のコネックス社から中国の企業に移すことを計画していた。

この動きを知ったコネックス社は、カザフスタンの資源の掘削権を得て好業績が期待されていたキリーン社と合併することにし、ワシントンの法律事務所に所属する弁護士のベネットは、この2社の合併に問題がないか調査を始めるが、政府関係者から横やりが入る。

コネックス社は、ナシール王子による掘削権の中国企業への移動の決定を覆させるべくアメリカ政府に働きかける。動き出したCIAは、CIA工作員バーンズにナシール王子の暗殺を命じ、親米派の弟王子をシリアナの新国王に祭り上げてシリアナを自分たちの意のままにしようとする。

一方、コネックス社とキリーン社の合併により石油精製施設を解雇されたワシームは、その後の転職先がなかなか見つからず、次第にイスラムの過激思想の影響を受けるようになっていく。

結局のところ本作では、国際的石油資本である石油メジャーの利権はイコール米国の利益ということになり、CIAによる暗殺や失脚工作、さらには自分たちの意のままになるカイライ政権までつくろうとする実態が暴かれている。そして、石油企業の利潤追求の中で失業し行き場を失った若者は、過激思想に染まりテロリストになっていく――そんな姿も描かれている。

 

シリアナ」とはワシントンのシンクタンクが考えた業界用語で、イラクイランシリアをひとつの民族国家にまとめあげることを想定して「アメリカの利益にかなう中東の新しい国」を指しているのだとか。

イラク戦争でサダム政権を倒したアメリカは、次にイラン、シリアを「テロ国家」の名のもとに打ち倒すことをねらっていて、その背後にはアメリカの“利権”が潜んでいるのだろうか。

 

民放のCSで放送していたイギリス映画「ボブという名の猫~幸せのハイタッチ」。

2016年の作品。

原題「A STREET CAT NAMED BOB」

監督ロジャー・スポティスウッド、出演ルーク・トレッダウェイ、ルタ・デバミンタス、ジョアンヌ・フロガットほか。

イギリスでシリーズ合計1000万部を超える大ヒットを記録したノンフィクション「ボブという名のストリート・キャット」を映画化した作品で、実話にもとづく物語。

 

ロンドンの路上で自作の歌を歌って小銭を稼いでいる若者ジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)は、ホームレスの麻薬常習者だった。立ち直ろうと厚生プログラムに通いはするものの、麻薬の誘惑に負ける日々を繰り返している。

宿代どころか、その日の食事にも困るジェームズをソーシャルワーカーのヴァル(ジョアンヌ・フロガット)は気遣い、今度こそ彼にとっての最後のチャンスと無償の住居をあてがい、再生に期待する。

そんなある日、ジェームスのところに茶トラの野良ネコが迷い込んできて、見捨てることのできないジェームズはあれこれ世話を始めるが・・・。

 

こうなるだろうなーと思って見ていたら、その通りになってハッピーエンドで終わる安直といえば安直な映画。

拾ったネコにボブという名前をつけ、肩に乗せて路上演奏したり、「ビッグイシュー」を売ったりしているうちに、ネコがかわいいと街の人気者になり、新聞に載り、出版の話が舞い込んできて本にしたら大ヒットを記録。麻薬とも縁を切って、隣室に住む女性とは仲よくなり、見放されていた父親ともヨリを戻し、極貧の路上生活ともオサラバしてメデタシメデタシ。

話がうますぎると思ったら、これが実話だというから驚きだ。

ネコが名演技してるなーと見ていたら、映画用に特別に調教したネコではなく、実際に原作者の相棒となったボブ自身が出演しているというから、さらに驚く。

主人公とハイタッチするシーンは演技ではなく実際のボブの仕種のようだ。

ネコのカメラ目線の映像も工夫されている。

 

というわけで、好評につき続編までつくられて2020年に公開されたそうだが、当人のボブは続編が公開された年の6月に亡くなってしまった。もともと野良ネコなので年齢ははっきりしないが、「少なくとも14歳」だったという。