善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」「素敵な人生のはじめ方」

スペインの赤ワイン「セレステ・クリアンサ(CELESTE CRIANZA)2020」

このところトーレス続きだが、きのう飲んだのもスペインのカタルーニャでワインをつくり続けて140年以上というトーレスの赤ワイン。

標高900mの山の頂上、「PAGO DEL CIERO(天空の畑)」と呼ばれるところで育ったスペインを代表する黒ブドウ・テンプラニーリョ100%。

ラベルにはワイナリーから望む美しい星空が描かれている。

 

ワインの友で観たのは、NHKBSで放送していたアメリカ映画「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」。

2015年の作品。

原題「TRUMBO」

監督ジェイ・ローチ、出演ブライアン・クランストンダイアン・レインエル・ファニングヘレン・ミレンジョン・グッドマンほか。

ローマの休日」はじめ数々の名作の脚本を書いたダルトン・トランボを主人公に、東西冷戦の時代、ハリウッドに吹き荒れた“赤狩り”を描く実話をもとにしたドラマ。

 

ダルトン・トランボはハリウッドで最も稼ぐ脚本家だったが、アメリ共産党員であったため第2次世界大戦後に“赤狩り”の対象となる。下院非米活動委員会に呼ばれたトランボは憲法修正第1条の表現や思想の自由を楯に「共産主義者か否か」の証言や仲間の「密告」も拒んだだめ、議会侮辱罪により“ハリウッド・テン”と呼ばれたほかの映画人とともに刑務所に収監され、出所後はハリウッドから追放されてしまう。

 

赤狩り”の対象が拡大し、たくさんの人々が業界から排除される中、トランボは自分と家族を養うため、また言論や思想の弾圧から「自由」を勝ち取るため、B級映画の脚本を匿名で書いて食いつなぎ、同様の圧力によって職にあぶれた仲間たちに仕事を回す。

彼が書いた脚本は高く評価され、友人名義で書いた「ローマの休日」やペンネームで書いた「黒い牡牛」はいずれもアカデミー賞を受賞するが、彼は名前を出すことはできない。

しかし、圧力に屈しない彼の生き方にやがて光があたるようになる。1960年、俳優のカーク・ダグラスが自信が主演する大作「スパルタカス」の脚本を、オットー・プレミンジャー監督がポール・ニューマン主演の「栄光への脱出」の脚本を依頼してくる。ハリウッドの“赤狩り”推進派は2人を脅してトランボ排除を図るが、2人は圧力をはねのけ、公開された映画にはトランボの名前が明示されていた・・・。

 

敵役も含めて、ほとんどすべての登場人物が実名で出ていて、役者もそれなりに似ている。

積極的にハリウッドから共産主義者を追放する活動に力を注ぎ、右翼団体アメリカの理想を守るための映画同盟」の議長でもあったジョン・ウェイン、のちに大統領となるロナルド・レーガン、ゴリゴリの反共コラムニスト、ヘッダ・ホッパー。

「オレは国のために戦ってるんだ」と勇ましいことをいうジョン・ウェインに、トランボが「君は戦争中にどこにいた?スタジオで空砲を撃ってたのか?」といい放つシーンは胸がすく思い。従軍記者として沖縄に行き戦争の悲惨さを目の当たりにしているトランボに対して、「家庭の事情(のちに世論の批判を恐れてか「重要な職業」と訂正された)」を理由に徴兵猶予を申請して兵役につかなかったのがウェインだった。「重要な職業」とは俳優のことだろうが、自分だけ安全なところにいて勇ましいことをまくし立てる者へのトランボの強烈な皮肉だった。

 

ハリウッドから干されていたトランボに、自分が企画して主演する映画「スパルタカス」の脚本を書かせたカーク・ダグラス、「栄光への脱出」の脚本を書かせたオットー・プレミンジャー監督の役割は大きく、トランボら“赤狩り”で追われた人々の仕事の復活、そして名誉の復活に貢献した。

私の好きな俳優ジョン・グッドマンもいい役していた。

彼が演じたのはB級映画のプロダクション(キング・ブラザーズ・プロダクションズ)の社長フランク・キング。

トランボがどんな思想を持っていようとそんなことはどうでもいい、おもしろい映画をつくってくれればそれでいい、というわけで、トランボにどんどん仕事を回し、圧力をかけようとやってきた連中を手荒く追い返してしまう。

人情味があって気骨のある役にジョン・グッドマンはぴったり(実在のフランク・キングはかりな太ってた人らしくて、それもあってジョン・グッドマンに役が回ってきたみたいだが)。

 

トランボが活躍していた時期、“人はみな平等”をうたう共産主義アメリカでは理想を追い求める若者の間で人気のある思想だったという。

しかし、東西冷戦が激化していくと、共産主義は敵と見なされ、共産主義者との疑いをかけられた人々は「破壊分子」と見なされて、映画の世界から追われていくのだった。家族も犠牲になったり、裏切ることで友人を失ったり、地位を失ったり、仕事を失ったりした人がたくさんいて、命を落とした人もいたという。

 

この映画は共産主義がいいとか悪いとかをいってるのではない。発言する自由、表現する自由、考えることの自由、人間らしくありたいと願う自由が守られているかを問うている。

トランボが共産党員だったからといって、それで彼が何か悪いことをしたのかというと、犯罪になるようなことは何もしていないのだ。映画の中でのトランボの次の言葉が印象的だった。

「下院非米活動委員会の目的は、スパイの発見、(共産主義者らによる)陰謀の暴露、反煽動法の制定だった。その目的達成のために数千時間が、数百万ドルが費やされた。それでスパイは見つかったか?ゼロだ。陰謀が暴露されたか?ゼロだ。反煽動法が制定されたか?されていない。彼らは、人々の働く権利を否定しているだけなのだ」

「反共」とか「アメリカを守る」という理由の元に“ありもしない恐怖”を煽り立てられた結果、トランボらは表現の自由を奪われ、働く権利を奪われたのだった。

 

本作ではトランボが友人の名で脚本を書いた「ローマの休日」のワンシーンが登場するが、グレゴリー・ペック扮する新聞記者のジーョーが、オードリー・ヘプバーン演じるアン王女を驚かそうとする「真実の口」でのシーンだった。

「真実の口」という彫刻には、手を口に入れて偽りの心がある者は手を抜くときに手首を切り落とされる、あるいは手が抜けなくなるという伝説がある。そこで、ジョーは王女を喜ばせようと悪ふざけをして、口に入れた手が抜けなくなったり、手首が切り落とされた演技をする。王女はびっくりして泣き出すが、いたずらと知って笑顔を取り戻し、2人の親密度は増していく。

あの「真実の口」に、“赤狩り”を推進した者たちこそ、手を入れさせたいとトランボは思ったのかもしれない。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のCSで放送していたアメリカ映画「素敵な人生のはじめ方」。

2006年の作品。

原題「10 ITEMS OR LESS」

監督・脚本ブラッド・シルバーリング、出演モーガン・フリーマンパス・ベガボビー・カナヴェイル、アン・デュデックほか。

モーガン・フリーマンが主演・製作総指揮を務めたハートフルコメディ。

 

かつてハリウッドの大スターだった老俳優(モーガン・フリーマン)は、有名人でいることを負担に感じ、4年近く俳優業から遠ざかっていたが、インディペンデントの小さな映画に出演する話が舞い込み、スーパーの店長役を依頼される。

役づくりの参考にしようとロス郊外のスーパーを訪れると、そこで出会ったのはレジ係をしている若い女性マーガレット(パス・ベガ)。彼女は店長の妻だが子どもはおらず、車も金も夫に奪われたうえ、夫はもう1人のレジ係と浮気していた。まだ25歳で仕事もよくできる彼女だったが、もうこんな仕事はイヤだと、夫とは別れ、建設会社の秘書の面接を受ける予定だが、自分の将来に希望を持てないでいる。

映画復帰をためらうかつての有名ハリウッド俳優と、人生の可能性を信じられない若きレジ係。2人の偶然の出会いが新たな人生の始まりに導いていく・・・。

 

原題の「10 ITEMS OR LESS」とは、直訳すれば「10項目以下」という意味だが、スーパーとか食料品店などにおける10点以内の会計専門のレジのこと。映画のヒロインがこのレジで仕事をしていて、その迅速な仕事ぶりに目を見張った老優が話しかけてきて物語が始まる。

アメリカでは、スーパーなどで一度に大量の買い物をする人が多いようで、買い物の量が少ない人が早く会計できるよう、「10 ITEMS OR LESS」という表示がある専用のレジがあり、少量の買い物で早く会計をすませたい人はそのレジに並ぶのだそうだ。さすが合理主義の国らしい。

レジに長蛇の列ができてイライラするのは日本も同じ。アメリカのように「10品目以下はこちらへ」と表示する特急専用レジはないのかというと、かつて、日本でもそういうレジを実施した例はあるそうだ。

しかし、5品以下とか、少ない品目しか買わない人のために専用のレジが設けられたものの、結局は次々と中止され、今ではほとんど見かけなくなったという。

なぜ中止になったのかというと、5品までなのに6品も7品も持ってくる人がいて、断ると「1つぐらいいいだろう」と開き直ったり、怒りだす人がいたりしてクレームが多くてやめたとか、ほかのレジにたくさん人が並んでいるのに少量専用レジはガラガラ。これでは効率が悪いという理由でやめたなどのケースが多かったという。

それでもスーパーとしても、何とかして客をイラつかせないようにできないかと、いろいろ努力はしているようで、セルフレジを導入したり、キャッシュレス決済にしたり、もっとすごいのは、レジに並ばずに商品を手に取って店を出れば決済完了、というスーパーも最近は登場しているという。