善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「王朝の陰謀」「ワンセカンド」「昼下りの決斗」

フランス・アルザスの白ワイン「ケヴュルツトラミネール(GEWURZTRAMINER)2018」

1626年に創業し、4世紀13代にわたる歴史を持つアルザスきっての名門ワイナリー、トリンバックの白ワイン。

ゲヴュルツトラミネールは果皮がうっすらとピンク色をした白ワイン用のブドウ品種。「ゲヴュルツ」とはドイツ語で「スパイス」という意味だとか。

代表産地はフランス・アルザス地方、ドイツ。

花束のような香りの癒し系白ワイン、と宣伝文句にあったが、たしかにそんな雰囲気のワイン。

 

ワインの友で観たのは、民放のCSで放送していた香港・中国合作の映画「王朝の陰謀 闇の四天王と黄金のドラゴン」。

2018年の作品。

原題「狄仁杰之四大天王」

監督ツイ・ハーク、出演マーク・チャオ、ウィリアム・フォン、ケニー・リン、カリーナ・ラウ、イーサン・ルアン、マー・スーチュンほか。

唐代の中国に実在した人物を登場させて数々の難事件を解決する様子を波瀾万丈に描き、“中国版シャーロック・ホームズ”とも称される人気推理小説の「ディー判事」シリーズの映画化で、映画シリーズの第3作。音楽は川井憲次

 

前作で国家の危機を救った功績により、皇帝からこの世で最強の神剣「降龍杖」を授かり、法務執行機関である大理寺の長官に任命されたディー(マーク・チャオ)。それを快く思わない皇后の則天武后は、神剣をわが物にしようと、司法長官のユーチ(ウィリアム・フォン)にディーの襲撃を命じ、さまざまな剣術・妖術の使い手である女剣士の水月(マー・スーチュン)ら異人組を配下に雇い入れる。

そんなある日、宮殿の柱に彫られた巨大な黄金龍に突然生命が宿り、異人組を襲うという謎の事件が発生。封魔族が妖術で人々を操っていることを突き止めたディーは、三蔵法師の弟子ユエンツォー大師(イーサン・ルアン)と医官シャトー(ケニー・リン)とともに戦いに挑むが・・・。

 

何の予備知識もなく見始めたが、主人公は実在の人物、狄仁傑(てきじんけつ、ディーレンチエ)。日本でいえば大岡越前や遠山の金さん的な存在で、高宗(在位649~683年)から則天武后(在位690~705年)まで4代の皇帝に仕え、判事として名をあげた。諸官を歴任し晩年は国老として重んじられたが、どんな相手であっても媚びることも怯むこともなく、筋を通す硬骨漢として人望を集めたといわれる。

大理寺というお寺が出てきて、しょっちゅう主人公がそこを出入りしているものだから「お寺で何が?」と思ったが、大理寺は、王朝時代の中国の官署の1つで、司法・裁判を司る法務執行機関。狄仁傑はそこの長官になったというから、最高裁長官みたいなものか。「寺」というと現代日本では仏教寺院の意味に使われるが、もともと役所の意味で、のちになって仏教寺院をも「寺」と呼ぶようになったという。

「寺」という文字の原義は「ものを手に持つ→手を動かして仕事をする」ということで、そこから、仕事をする場所、特に役所を「寺」と呼ぶようになり、唐の時代には太常寺、光禄寺、宗正寺、大理寺、鴻臚寺など、役所が9つあったので総称して「九寺」といっていたそうだ。

それがなぜ今日では仏教寺院のみを「寺」というようになったかというと、中国にインドから仏教が伝来したのは1世紀ごろといわれるが、仏教を伝えるためインドからやってきた僧を外国人を担当する役所である鴻臚寺に入れ、のちに郊外に彼らが住む建物を建てて白馬寺と呼び、中国最古の寺院となる。つまり、役所としての「寺」と仏教施設としての「寺」は並立することになるのだが、その後、仏教が広まってその施設が増加していくと、仏教寺院としての「寺」のほうがなじみが深くなるし、有名となり、次第に仏寺のみを「寺」と呼ぶようになっていったのだそうだ。

 

映画は魑魅魍魎の世界が描かれていて、登場するのも異界からやってきたような奇怪な人物たち。

異人組のメンバーは、4本の腕を持ち嵐を起こす方術遣いの幻天道士、いくつもの巨大なブーメラン刀を操る男、火術を操る火ダルマ老婆などなど。

妖術で人々を操る封魔族というのは、かつて唐の初代皇帝・高祖に滅ぼされた一族で、復讐のためにやってきて、移魂術(一種の催眠術のようなもので相手を操ることができる技)で人々を手玉にとり、全身目玉だらけの超巨大四天王像を登場させて襲いかかってくる。

移魂術を打ち破ることができるのは、仏法の求道者である三蔵法師の弟子ユエンツォー大師だけというので、大師はキングコングみたいな巨大白ヒヒに乗ってやってきて、最後はまるで怪獣対決。

しかし最終的には力ではなく、ユエンツォー大師が唱える経文に敵は改心し、ヘヘーッとひれ伏して一件落着となる。

怪奇・スペクタクル映画ではあるけれど、結末だけ見ると大岡越前守の“大岡裁き”にどこか似ていて、平和的?な終わり方だった。

 

ついでにその前に観たのも中国映画。

民放のCSで放送していた「ワンセカンド 永遠の24フレーム」。

2020年の作品。

原題「一秒鐘」

監督・脚本チャン・イ―モウ、出演チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイほか。

1969年、「文化大革命」下の中国。“造反派”に抵抗したことで強制労働所送りになった男(チャン・イー)は、妻に愛想を尽かされ離婚となり、最愛の娘とも親子の縁を切られてしまう。数年後、「22号」という映画の本編前に流れるニュースフィルムに娘の姿が1秒だけ映っているとの手紙を受け取った男は、娘の姿をひと目見たいという思いから強制労働所を脱走し、逃亡者となりながらフィルムを探し続ける。

男は「22号」が上映される中国西北部の砂漠の中にある小さな村の映画館を目指すが、村の女の子が映画館に運ばれるフィルムの缶を盗みだすところを目撃する。フィルムを盗んだその子は、父母のいない、弟と暮らす貧しいリウ(リウ・ハオツン)だった。弟の勉強のために電灯の笠が必要で、フィルムで代用しようとしていたのだ。

男はすぐにリウを見つけ出し、盗んだフィルムを映写技師のファン(ファン・ウェイ)に返す。ところが、運搬係の不手際で膨大な量のフィルムがむき出しで地面にばらまかれ、ドロドロに汚れたフィルムは上映不可能な状態になってしまい、映画の上映を心待ちにしていた村は大騒ぎ。果たして男は、愛しい娘の姿を見られるだろうか?そして、追われ続ける彼の運命は・・・?

 

あの時代、人々にとって映画は唯一とっていいほどの娯楽であり、新しい映画がやってくるのを心待ちにしていたことがよく分かる。

砂で汚れたフィルムを洗浄し乾かすため、村人たちは総出で頑張る。それもこれも映画観たさだった。

一方、ニュース映像に娘の姿が1秒、つまり24コマだけど写っているのを観たさに、強制収容所所を脱走してきた男は、貧しくとも弟と懸命に生きる少女と、最初は敵対するが、やがて心をかよわせていく。

男は、毛沢東を妄信して専制支配に突き進んだいわゆる“文革”を邪魔する“反革命分子”の烙印を押されて強制収容所に送られ、妻からもわが子からも見放された男。

それでも1秒だけ写っているわが子の姿を見たさに脱走したのだが、何とか上映されたニュース映像を見ることができたものの、結局、男は探しにきた保安局に捕まってしまい、再び収容所に戻される。

男に同情した映写技師は、男の娘が写っているフィルムの切れ端を新聞紙に包んでソッと男の胸ポケットに入れる。男を引っ立てる保安局が胸ポケットに入った紙包みを見つけて、砂漠の空に投げてしまう。

遠くからその光景を見ていた少女は、投げられて砂漠に落ちた紙包みを見つけるが、中に入っていたフィルムの切れ端はこぼれ落ちて砂漠の中に埋もれてしまう。少女は新聞の記事が大事なんだろうとその紙を持って帰る。

2年後、ようやく自由の身になった男が村にやってきて、少女を探す。少女は大事にとっておいた紙を渡すが、中のフィルムの切れ端はない。

2人して落ちているであろう砂漠に行ってフィルムを探すが、見つかるはずもない。

落胆し、自棄っぱちになるかと思ったらそうはならない。男は苦笑するようにしてニッコリと笑う。

そのとき、男は忌まわしい時代の記憶を砂漠の中に葬り去ったのだ。

そして、男と少女は新しい父と子となったのだった。

 

監督チャン・イ―モウの痛烈な“文革”批判がこの結末に示されている気がした。

それを暗示するのが、劇中で描かれた、砂漠の中の村の映画館で上映された映画だった。

「英雄児女」という1964年の作品で、朝鮮戦争の時代を描いた映画。中国人民志願軍の幹部だった男は、かつて上海で共産党の地下党員として活動し国民党に逮捕された際、一人娘を知り合いの労働者に託す。それから20数年後、成長した娘と朝鮮の戦場で再会を果たすという話だが、原作は小説で、その小説のタイトルは「一家団らん」だった。映画は英雄的シーンを増幅させて「英雄児女」という勇ましいタイトルとなったが、基本は父と子の物語であり、一家団らんという、ありふれているけれども庶民の願いを描いたものだった。

「妻への家路」(2014年)以来となる“文革”を背景とした本作で、庶民の一家団らんも、父と子の関係もめちゃくちゃにしてしまう“文革”の醜さ、そして、そうした醜い歴史からの訣別を、チャン・イ―モウは伝えたかったのではないだろうか。

 

少女役のリウ・ハオツンは大学2年のときに3000人のオーディションの中からチャン・イーモウに見いだされて本作が映画初出演。やはりチャン・イーモウ監督の「崖上のスパイ」(2021年)にも出ていた。

チャン・イーモウは「紅いコーリャン」ではコン・リー、「初恋のきた道」ではチャン・ツィイーを抜擢していて、新人女優発掘の名手かも?

 

続いてはアメリカ西部劇。

NHKBSで放送していたアメリカ映画「昼下りの決斗」。

1962年の作品。

原題「RIDE THE HIGH COUNTRY」

監督サム・ペキンパー、出演ランドルフ・スコット、ジョエル・マクリー、マリエット・ハートリー、ロン・スターほか。

ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアを舞台に、老ガンマンの友情と裏切りを描く西部劇。

 

元保安官のスティーブ(ジョエル・マクリー)は、年をとって保安官をやめて新しい仕事を探しているうち、金鉱山から掘りだした金を町に運ぶ仕事を請け負う。賊から狙われる心配があるため、かつての部下で友人のギル(ランドルフ・スコット)と若いヘック(ロン・スター)と一緒に行くが、ギルは実は機を見て金を横取りしようとしていた。

途中、専横的な父親から逃げて独立したい農場の娘(マリエット・ハートリー)もついてきて金鉱山に向かうと、そこには父親には内緒にしていた彼女のフィアンセが待っていた。しかし、その男には4人の兄弟がいて、いずれも粗野で、花嫁をみんなのものにしたいという魂胆でいた。

驚いた娘は結婚を解消して逃げ帰ろうとする。それを許さないフィアンセら野蛮な男たちがあとを追ってきて、スティーブやギルらとの銃撃戦となる・・・。

 

まさに中年の男の挽歌といっていいような映画。

ティーブとギルは最後にはかつての友情を取り戻し、無法者どもをやっつけて娘を助けるが、重傷を負ったスティーブは、自分はもはや助からないと一人静かに死んでいく。

尊厳を守って死んでいく主人公の最期の姿がとてもシブくて、印象深かった。