善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

念願叶い葛飾応為「吉原格子先之図」

東京・表参道の太田記念美術館で「葛飾応為『吉原格子先之図』-肉筆画の魅力」展が11月1日から26日まで開かれていて、最終日に駆けつけた。

日本画の中で、生きているうちに何としても見ておきたい作品、というのがいくつかあって、ひとつは菱田春草の「落葉」、次が田中一村の「アダンの海辺」で、菱田春草の「落葉」は2014年に東京国立近代美術館で開かれた「菱田春草展」で観たし、田中一村の「アダンの海辺」は2021年に千葉市美術館で開かれた「田中一村展」で観ることができた。

もうひとつ、観たくて観たくてなかなかチャンスがなかったのが、葛飾応為の「吉原格子先之図」。太田記念美術館が所蔵していて、3年半ぶりに公開するというので馳せ参じた。

 

葛飾応為(生没年不詳、一説には寛政12年(1800)~慶応2年(1866)ごろといわれる)は江戸時代の浮世絵師で、葛飾北斎の娘でもある。

世界で10数点しか作品が確認されていないのにもかかわらず、北斎とも異なるその印象的な作風は多くの人を魅了し続けていて、中でも代表作として知られるのが「吉原格子先之図」。

遊廓である吉原の光と闇を美しく描いた名品だ。

初めてこの肉筆画作品を肉眼で観たが、今まで観た浮世絵のイメージとはまるで異なるものだった。

場所は吉原遊郭の妓楼・和泉屋の店先。

暗闇の中に、ほのかなロウソクの明かりにより浮かび上がる遊女と客を描いて、大胆な陰影を用いた幻想的な作品となっている。

黒いシルエットの人物の体の線のふくよかな曲線が強調されていて、柔らかい光ととともに作品全体もやわらかな温かさを感じさせる。

応為の作品には署名がないものが多いが、この作品にははっきりと署名がされていて、提灯に絵師としての名前「應」「為」と、本名の「栄」が記されている。応為の遊び心によるものか。

北斎には2人の息子と3人の娘(一説に4人)がいて、三女だったお栄は始め絵師・三代堤等琳の弟子である南沢等明に嫁ぐ。しかし、夫の絵のヘタさにあきれたか何かして離縁し、父のもとに戻って応為と号して浮世絵の制作に励むようになる。美人画を得意とし、春画や版本の挿絵も手がけ、在世中に発行された「続浮世絵類考」の中で、美人画春画で知られる渓斎英泉から「女子栄女、画を善す、父に従いて今専ら絵師をなす、名手なり」と評されるほどだった。

商家や士族の娘たちを門人に取り、指導もした。

酒と煙草を好み、部屋は汚れるにまかせ、料理もしなくて店屋物ですませていたようだが、父ヘの孝行は怠らなかったという。

 

応為の作品でほかに有名なものとしては、やはり光と陰を描いた「夜桜美人図」(メナード美術館所蔵)、「月下砧打美人図」(東京国立博物館所蔵)があり、こちらもぜひとも観たいものだが・・・。

と、気になって調べたら、「夜桜美人図」はメナード美術館で来年1月~3月まで開かれる「所蔵企画展 歳時記 花ひらく春」の後期展示(2月20日~3月31日)にて出品予定という。メナード美術館は愛知県小牧市にあるので、チャンスがあったら行ってみたい。

 

展覧会では、応為の作品以外に太田記念美術館所蔵のほかの絵師たちの作品も展示されていて、葛飾北斎「羅漢図」、喜多川歌麿「美人読玉章」、歌川国芳/歌川国英「浴後美人図」、明治時代に活躍した小林清親「開化の東京 両国橋之図」など名品ぞろいで、肉筆画の魅力を堪能できた。

 

展覧会のあとは、表参道をずっと下って行った先にあったそば屋「しろう」で新そばを食べる。

古民家ふうの造りになっていて、席に着くと、まるで江戸時代の応為のいた世界に迷い込んだみたいな気分。

それなら、というので、そばの前には日本酒。

飲んだ酒は、山梨の「七賢(純米)」、それに栃木の「姿(純米吟醸 中取り 雄町)。

つまみは、鴨ロースに大和芋の磯辺上げ。

仕上げは新そば。

香り豊かでおいしいそばでした。