善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」

南アフリカの赤ワイン「ラ・モット・ミレニアム(LA MOTTE MILLENNIUM)2018」

南アフリカのワイナリー、ラ・モット。

メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベックをブレンド

フランスのボルドースタイルを意識した赤ワインだそうで、銘醸地のさまざまな特徴をもつ畑からとれたブドウを組み合わせてつくったワイン。そのためブレンドによる複雑な香り、濃厚な果実味を堪能できるというが、なるほどそんな雰囲気の味わい。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたアメリカ映画「ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男」。

2019年の作品。

原題「DARK WATERS」

監督トッド・ヘインズ、出演マーク・ラファロ(製作も)、アン・ハサウェイティム・ロビンスビル・プルマンほか。

 

環境汚染問題をめぐって1人の弁護士が十数年にもわたり巨大企業との闘いを繰り広げた実話を映画化。

1998年、オハイオ州の名門法律事務所で働く企業弁護士ロブ・ビロット(マーク・ラファロ)が受けた思いがけない調査依頼。それはウェストバージニア州の農場が、大手化学メーカー・デュポン社の工場からの廃棄物によって土地が汚され、190頭もの牛が病死したというものだった。

ロブの調査により、デュポン社が発がん性のある有害物質の危険性を40年間も隠蔽し、その物質を大気中や土壌に垂れ流し続けた疑いが判明する。

ロブは7万人の住民を原告団とする一大集団訴訟に踏み切り、巨大企業を相手に法廷闘争に挑むが・・・。

 

問題となった有害物質とは、PFAS(ピーファス)と呼ばれる有機フッ素化合物だった。PFASは人工的につくられたものが4730種類以上あるといわれ、産業上、最初に利用されたPFASはアメリカの素材メーカー・3M(スリーエム)が1947年に開発したPFOAと呼ばれるものだった。PFOAはアメリカのデュポン社が1938年に開発したテフロンの加工特性を改善する化合物として利用され、これによりデュポン社は莫大な利益を上げていく。

PFAS はまた、消費者向けの製品のほか泡消化剤などどしても利用され、PFASを用いた泡消化剤は軍事基地や空港、石油掘削装置、各地の消防署などにも配備されていった。

このように、水や油をはじく特性を持つことから幅広い用途に使われるようになったPFASは、自然界で分解されることがほとんどないとされることから「フォーエバー・ケミカル=永遠の化学物質」とも呼ばれもてはやされたのだが、次第に、その“裏の顔”(いや、これこそが本当の表の顔かもしれないが)が明らかになっていった。

人工物であるがゆえに人体や環境への残留性が高く、腎臓がんなどの発症や胎児・乳児の成長阻害、コレステロール値の上昇、抗体反応の低下などの健康リスクがあることが明らかになっていった。

デュポン社のテフロン加工製品などの有害性を指摘する声もある(現在のフライパンでテフロン加工などフッ素樹脂コーティングをしているものの多くはPFOAを含有していないと主要メーカーは明らかにしているらしいが。ちなみに我が家は一貫して鉄のフライパン)。

 

現在、日本でも問題となっているのは、沖縄や東京、神奈川など駐留アメリカ軍の軍事基地周辺の河川や地下水などでPFASが国の暫定的な目標値を超える値で検出されていることだ。

毎日散歩している善福寺公園に隣接して、都水道局の「杉並浄水所」があるが、水道局が5月19日に公表したPFASの検出状況によると、同浄水所の取水井戸からもPFASが検出されていて、その値は1ℓあたり210ナノグラム。環境省が設定している「指針値」の1ℓあたり50ナノグラムに比べ4倍以上の高濃度汚染となっていたという。

杉並浄水所は、都内でも数少ない井戸水を水道水の原水にしている浄水所。その井戸水から高濃度のPFASが検出されたというのだから、汚染の広がり具合の深刻さがわかる(ただし、杉並浄水所は2016年に大腸菌が検出されたため現在運用停止中とのことで、多少ホッとしている)。

米国では、人口の99%の血中にPFASが存在するという調査結果が出ているという。果たして日本ではどうか? きちっとした調査と対策が望まれる。

 

映画では、主人公の弁護士がPFASの危険性をひた隠しにしたデュポン社による汚染物質垂れ流しの実態を突き止め、ついに追い詰められた同社がその事実を認めて和解に至るまでを描いているが、和解金額は合計6億7070万ドル、日本円にして765億円に達したという。

しかし、事件発覚から和解までは20年もの月日が流れていた。

汚染物質を平気で垂れ流すような企業(さらにはそういう企業を擁護する国なり行政なり)というのは、洋の東西を問わず、自分たちの責任を頑として認めようとしないのが常らしい。

たとえば日本の水俣病では、病気の発生が確認されてから原因はチッソの工場からのメチル水銀とわかるまでに12年もかかった。国や企業に救済策を講じさせるまでにはさらに長い年月がかかり、公式に確認されてから60年以上たった今でも、患者として認定されていない人、裁判で損害賠償が認められていない人が多数いる。

 

デュポン社といえば、戦争によって利益を得ようと兵器などの軍需品の生産・販売で金儲けする、いわゆる“死の商人”の代表格。化学製品を次々開発する一方、第2次世界大戦では原爆製造にあたり、戦後は原子力産業に進出。巨万の富を築いた。

金儲けしか頭にないと、まわりに害を及ぼしたりすことなどはまるで眼中にないばかりか、“なかったこと”にして平気でいられるのだろうか。