善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「ミス・ワイフ」「アナザー・ラウンド」

フランス・ボルドーの赤ワイン「シャトー・オー・リテ(CH.HAUT LITAYS)2018」

メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンカベルネ・フランブレンド

それぞれの個性がバランスよく合わさり、グラスに注ぐとラズベリーやカシスなどのアロマが立ち上る。果実味とタンニンが溶け込み滑らかな口当たり。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していた韓国映画「ミス・ワイフ」。

2015年の作品。

原題も韓国語で「ミス・ワイフ」という意味らしい。

監督カン・ヒョジン、出演オム・ジョンファソン・スンホン、キム・サンホ、ラ・ミランほか。

 

恋愛や結婚に全く価値を見い出さない敏腕弁護士が、一転して妻であり母である女性になってしまったことから起こる騒動を描いたファンタジー&ラブコメディだが、よくもこんなストーリーを思いついたものだと感心しつつ観た奇想天外の物語。

 

船乗りだった父は幼いときに亡くなり、母とも死別。天涯孤独で今は金持ち御用達の冷徹エリート弁護士のヨヌ(オム・ジョンファ)は39歳・独身。

そんな彼女が交通事故に遭い、本来なら助かるはずだったのに天界の手違いで命を失うハメになってしまい、慌てたのが亡くなった人を天国に送り込む「天国の中継所」の所長(キム・サンホ)。ちょうど1カ月後に死ぬはずの主婦を早く死なせてしまうというミスもあり、辻褄を合わせるため、ひと月だけその主婦の人生を生きれば元に戻すとヨヌに約束する。ただし、誰にも正体を見破られてはいけないという条件付きだ。

目を覚ますと、ヨヌは安月給の区役所職員の夫ソンファン(ソン・スンホン)と暮らす2人の子持ち主婦になっていて、戦争のような日常が始まる。

町内の主婦たちとの嵐のような井戸端会議に、1枚35ウォンの紙袋折りの内職まで、晴天の霹靂のごとき逆転人生にパニックに陥るヨヌ。しかし、依然として敏腕弁護士の属性を捨てきれないヨヌは突発的な行動を繰り返す。

妻・母の変化に、夫と子どもたちも最初は訳が分からないままうろたえるが、次第に慣れていく。するとヨヌも、貧しくても家族の愛に包まれた家庭ですごすうち、次第にカネがすべての特権階級の醜さを知るようになり、本当の幸せとは何かを知る・・・。

 

しかし、この映画の一番の見どころは、キム・サンホ演じる「天国の中継所」所長の意外な正体。一気に涙腺がゆるんでしまった。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたデンマーク映画「アナザー・ラウンド」。

2020年の作品。

原題「DRUK」

監督トマス・ビンターベア、出演マッツ・ミケルソン、トマス・ボー・ラーセン、ラース・ランゼほか。

 

高校の歴史教師マーティン(マッツ・ミケルソン)は退屈な授業で生徒からも親からも不人気だが、あるとき、血中アルコール濃度を0・05%に保てば仕事の効率と意欲が増すという仮説を聞く。彼を含む教師4人で仮説の実証実験をしようと、朝から酒を飲み続け、常にほろ酔い状態で授業にのぞむようになる。

すると授業はおもしろくなり、生徒たちとの関係も良好になって人生はいい方向に向かっていく・・・はずだった。ところが、実験が進むにつれて次第に飲酒をコントロールできなくなり、だんだんアルコール依存症みたいになっていき、このままではいけないと悟った4人。時すでに遅く、4人のうちの1人は事故で死んでしまい、マーティンも妻と大ゲンカして結婚生活は破綻し、妻は子どもを連れて出ていってしまう・・・。

 

この映画は、アルコール依存症がもたらす悲劇を描いている“はず”なのだが、悲劇の物語は途中でしり切れとんぼとなり、「やっぱり酒は人生を楽しくする」と“アルコール讃歌”の歌とダンスで終わっている。

アルコール依存症への警鐘はどうなったの?と違和感を抱きながら見終わったが、日本とはまるで違うデンマークの“酒飲み事情”を知って納得したのだった。

 

血中アルコール濃度が0・05%とはどのくらいかというと「ほろ酔い」程度といわれる。

日本の道路交通法において「酒気帯び運転」で違反となるのが呼気中アルコール濃度が0・15mg/L以上のときで、血中アルコール濃度に換算すると0・3mg/mL、つまり0・03%にあたる。ビール中びん1本、日本酒1合、ウイスキーダブル1杯を飲んだときがだいたい血中アルコール濃度0・02~0・04%ぐらいというから、0・05%だと道交法では即アウトの数値となる。

では、デンマークでの「酒気帯び運転」の定義はというと、血中アルコール濃度0・05%以上で、日本よりは甘い。ちなみに0・05%以上とする国はヨーロッパではほかにイタリア、フランス、オランダ、ベルギー、フィンランドなどで、ノルウェースウェーデンは0・02%以上、ドンツでは免許取得後2年以内、21歳以下は0%とかなり厳しく、国によって違いがあるようだ。

日本より甘い基準のデンマークだが、2014年の法律改正により飲酒運転への罰則はかなり厳しくなったという。運転免許の取り上げだけでなく車も没収。罰金の金額も上がって最低でも1カ月の月給分が課せられるという。

何でこんなに厳しくなったかというと、どうやらデンマーク人は酒飲みが多いようで、飲酒運転による事故が多発しているからという。

デンマークは北極圏に近い北欧の国。一般に寒い国の人たちは強いアルコールを飲む習慣があり、経済協力開発機構OECD)加盟国を対象とした1人あたりのアルコール消費量の国別ランキングでも、デンマークは19カ国中第5位(2011年のデータ。日本は16位)。それくらい酒が好きな国なので0・05%程度では満足できず、ついつい基準を超えてしまうため法律を厳しくて取り締まる必要があるのだろう。

 

さらにびっくりするのは、デンマークでは飲酒に関して年齢制限というものは存在しないのだという。未成年であろうと保護者の許可があれば何歳からでも酒が飲める。ただし、店で酒を購入できるのは16歳以上で、アルコール度数16・5以上の酒を購入できるのは18歳以上、となっている。

デンマークの家庭では、平均して14歳ぐらいから酒を飲み始めるのが一般的という話も聞くから、アルコールを許容する体質の違いもあるのだろうが、酒に関する日本人の理解をはるかに超えている。

しかし、いくら酒に強いデンマーク人といっても、毎日過度に飲み続ければ体にも心にもいいわけはない。

酒の飲み方には2通りがあると思われる。

1つは、料理をおいしく食べるための酒。ワインや日本酒などはまさしくそのための酒であり、飲みつつ料理を楽しむと、両方のおいしさが融合して相乗効果を生んでいく。

2つめは、ただひたすら酒を楽しむ、あるいは酔うことを楽しむために飲む酒。ウィスキーなんかはその代表だろうし、日本酒にもそういうところがある。

しかし、どんな飲み方をしようと酒には怖さが潜んでいるのも事実だ。麻薬・覚せい剤・タバコ・睡眠薬などと同じく、依存性のある薬物の一種がアルコールであり、あまりに過度に飲み続けてばかりだと依存症という病気を引き起こしてしまう。

そうした危険を十分知りつつ、節度ある飲み方で、あくまで酒は楽しむためにある――これがデンマーク人の酒との付き合い方なのだろうか。

 

酒飲みへのオマージュと思われるシーンがある。

冴えない教師のマーティンが、血中アルコール濃度0・05%のほろ酔い状態で授業にのぞみ、生徒たちに問題を出す。

「君たちが今、1940年代に生きているとして、これから例に挙げる3人の政治家のうち、誰に投票し、国政を任せるか答えてもらおう」

といってマーティンが挙げたのが、1人目は、マティーニが好きでいつも酔っぱらっていて、しかも女好きで浮気してる男。2人目は、夜寝るときはシャンパン、ウォッカを飲み、それでも眠れなくて睡眠薬を飲んでいる。その上ヘビースモーカーで葉巻ばかり吸っている完全なアルコール依存症の男。3人目は、酒もたばこもやらないし、女性関係もきれい。子どもや動物を愛してるとても礼儀正しい男。

「この3人のうち、誰を国のリーダーとして選ぶ?」と聞くと、生徒たちが選んだのは3番目の男。するとマーティンが種明かしをして、「1番目の男はフランクリン・ルーズベルトアメリカを勝利に導いた大統領。2人目のアルコール依存症の男はその当時のイギリスの首相・ウィンストン・チャーチル。そして、3番目の清廉潔白で酒もたばこも女もやらない男。これはアドルフ・ヒトラーだ」というので生徒たちは目をパチクリ。

高校生を相手に“酒飲み讃歌”をぶち上げるのだから、いかにもデンマークらしい。

 

原題の「DRUK」とは、「大量に酒を飲む」の意味のデンマーク語という。

一方、英題は「ANOTHER ROUND」で、直訳すれば「また別の一回り」だが、本作では「もう一杯」の意味で使われている。

バーで飲んでいてバーテンダーから「another round?」と聞かれたら、「もうイッパイどう?」という意味だそうだ。