善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

「アプロプリエイト-ラファイエット家の父の残像-」

地下鉄赤坂見附駅から歩いて数分のところにある「赤坂RED/THEATER」で、劇団ワンツーワークスの「アプロプリエイト-ラファイエット家の父の残像-」を観る。

同劇団は劇作家・演出家の古城十忍(こじょう・としのぶ)氏が主宰する2009年設立の演劇集団。

脚本ブランデン・ジェイコブズ-ジェンキンス、訳・小田島恒志・小田島則子、演出・古城十忍、出演・関谷美香子、奥村洋治、小山萌子、間瀬英正、高畑こと美、阿久津京介、川畑光瑠、谷山浩太郎・内田翔大(ダブルキャスト)。

 

2011年ごろのアメリカ南部アーカンソー州の元・大農園だった家のリビングルーム

亡くなった父の財産分与をすべく長女、長男、次男の3姉弟がそれぞれ家族を連れて集まり、久々に顔を合わせる。
原題の「APPROPRIATE」は「適切な/処分する/割り当てる/着服する」といった意味があるそうだが、3人の姉弟は財産を「適切」に分けようとするものの意見が対立してばかりで分与はいっこうに進まず、それぞれの身勝手な人格ばかりが明るみに出る。
すると、父親の遺品の中から誰も知らなかった「あまりにも、あまりにも不適切なあるモノ」が発見され、事態はさらにややこしくなっていく。

ついには、いかにも南部の物語らしく人種差別をめぐり亡くなった父親の人格についても考え方の違いが明らかとなり、3姉弟とその家族の罵り合いはますます壮絶になっていく・・・。

 

「適切」にするはずが家族を「分断」し、壮絶な罵倒合戦へと発展していく。罵倒し合うことで人間の本性をあぶり出すかのようだが、「アメリカの暗部」をもあぶり出している気がした。

劇の最後の方の、罵り合いの果ての“乱闘”シーン。出演者全員がスローモーションのあとピタッととまる静止のポーズが秀逸だった。

 

観ていて発見もいくつか。

ひとつは「アイムソーリー(I’m sorry)」の語源。

「Sorry」の語源は「sore(痛い)」だという。つまり「I’m sorry」とは単なるお詫びの言葉ではなく、「心が痛む、悲しい」という深い意味が込められているようだ。

ただし、日本では「心が痛い」とか「痛み入る」という場合、自分の非を詫びるというより、自分の周辺の人に対しての同情の言葉として使われることが多い。

 

もうひとつは、劇中でのセリフというより、「上演に寄せて」と題する演出の古城氏の文章にあった「13年ゼミ」のこと。

劇にはやたらとセミ(蝉)が登場していて、効果音としてもセミが交尾の相手にアピールするため耳をつんざくほどにわんわんと鳴いているが、ここで鳴いているのは「13年ゼミ」と呼ばれるセミ

ほかにも「17年ゼミ」というのもいて、いずれもアメリカにしか生息していないらしい。

「13年ゼミ」「17年ゼミ」は幼虫から成虫になるのにそれぞれ13年、17年かかるセミのこと。それだけの年月をかけてきっちり現れるので周期ゼミと呼ばれ、産みつけられてから幼虫の段階はずっと地中ですごし、13年、17年たって地上に出ると、ようやく羽化して成虫になり、交尾をして子孫を残すとすぐに死んでしまう。成虫の期間はたった数週間だ。

 

これらのセミは13年ごと、17年ごとに大量発生し、その数、何と数10億匹ともいわれる。注目すべきは、「13」も「17」も「素数(1と自分自身以外では割り切れない2以上の整数)」であることで、こうした周期ゼミは「素数ゼミ」とも呼ばれているそうだ。

なぜ素数なのかというと、理由は「種の継承」「種の生き残り」にあるのだという。

「13年ゼミ」と「17年ゼミ」だけが残る以前、周期ゼミの祖先には12年~18年までいろいろな周期で羽化する群れがいたことがわかっている。しかし、長い歴史の中で13年周期と17年周期以外の周期ゼミは絶滅してしまった。その理由は、12~18の中で、13と17だけが素数だったからだ。

なぜ素数なのか?そのナゾを解明したのが日本の生物学者である静岡大学の吉村仁教授だ。

吉村教授によると、氷河期は低温のため長い周期で繁殖する種が増えたが、素数でない周期をもつセミ同士は互いに偶然の交雑によって周期性が崩れていくのに対して、13年や17年という繁殖周期をもつセミは他のセミと交雑する可能性が低いため、周期性を確立することができたのだという。

ちなみに素数は小さいのから順に2、3、5、7、11、13、17、19・・・と続いていて、その暗記方法として次の語呂合わせがあるんだとか。

2、3(兄さん)、5(5時に)、7、11(セブン・イレブン)、13(父さん)、17(いないと)19(ついていく)

そういえば、芝居で罵倒し合った姉弟は3人で素数。罵倒合戦に参加する家族を入れると(セリフのほとんどない子役を除く)7人で、これも素数だった。