なぜか無性にマーラーを聴きたくなって、NHK交響楽団の第1965回定期公演を聴きにいく。
場所は東京・渋谷のNHKホール。
N響のホームグラウンドだったが、何年か前から改修工事のため休館していて、今年7月に再オープンしたばかり。
指揮 はヘルベルト・ブロムシュテット。
今年95歳の高齢ながら元気そのもの。それでも80分もの長さの交響曲。渾身の指揮ゆえに1曲やっただけで精も根もつき果てるのだろう(演奏者も含めて)。
たしかにその通りの演奏で、思い出に残るような名演奏だった。
最後のピアニッシモで消え入るように第4楽章が終わると、指揮者のブロムシュテットも楽団員も、満員の観客も、誰もが身動きひとつせず、ただただその余韻に浸るばかり。
しばらくそのままで、後ろの方で誰かが、きっともう我慢できなかったのだろう、「ブラボー!」と叫んだものだからようやくみんなハッと我に返って、客席からの万雷の拍手が会場を包み、長く長く、鳴りやまなかった。
(写真はカーテンコールの様子)
この曲はグスタフ・マーラー(1860~1911年)49歳のときの作品で、1909年夏から翌1910年4月にかけて作曲された。その翌年の5月、彼は50歳で亡くなっている。
その翌年の1912年6月、ブルーノ・ワルター指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団により初演され、マーラーは演奏を聴くことなく亡くなった。
彼は心臓病を患っていて、神経症状にも悩まされるようになっていたという。
そんな中で作曲されたのがこの曲だった。
コンサートの当日配られた冊子の中で曲目解説をした京都大学教授の岡田暁生氏は、この曲は死を目前にしたマーラーの最後の完成作で「辞世の歌」であり、「死へ向けたひとつの吐息」である、といっている。
また、本作は死の世界との交感でもある、というようなことも述べている。
マーラー自身、第4楽章の最後の小節に、「ersterbend(死に絶えるように)」と書き込んでいたという。
だが、死の世界との交感であるならば、そこには、生きている今の自分もいるはずで、単なる哀歌ではなく、生きることの意味を問い直すようなきのうの演奏だった。
曲目は一曲のみだったのでコンサートは早く終わり、以前行ったことのある奥渋(文字通り渋谷の奥にある)のビストロ「ROJIURA」へ。
生ビールのあと、フランス・ロワール渓谷の赤ワイン「シュヴェルニー・ルージュ・ル・クロ・デ・カルトリー2020」。
生産者は自然派ワインにこだわっているというクリスチャン・ヴェニエ。ブドウ品種はガメイ、ピノ・ノワール。エレガントで飲みやすいワイン。
まずは「本日のアミューズ」、要するにお通し。
自家製の生ハム。
これも自家製のパン。
鴨胸肉とザクロ、ブラーッターチーズのサラダ。
幸せな気分で帰宅。