善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「トスカの接吻」ほか

アルゼンチンの白ワイン「ロ・タンゴ・トロンテス(LO TENGO TORRONTES)2021」

創業120年のアルゼンチンを代表するワイナリー、ボデガ・ノートンの白ワイン。

「タンゴ」を踊る美しいラベルが印象的。

アルゼンチンの土着品種トロンテス100%で、爽やかでフレッシュな味わい。

トロンテスはアルゼンチンが原産地で、現在もほぼアルゼンチンでのみ栽培されているというが、もともとは、キリスト教伝道のためスペインの修道士が持ち込んで広くアメリカ大陸で栽培された種と、食用のマスカットの一種(マスカット・オブ・アレキサンドリア、日本国内で食べられているマスカットがこの種という)との自然交配によって生まれたといわれている。

香りに出るマスカットの風味は食用のマスカットの遺伝子によるものらしい。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたスイス映画トスカの接吻」。

1984年の作品。

監督・脚本ダニエル・シュミット、出演サラ・スクデーリ、ジョヴァンニ・プリゼドゥ、レオニーザ・ベロン、ジュゼッペ・マナキーニほか。

 

イタリア・ミラノに実在する音楽家のための養老院「ヴェルディの家」を舞台に、そこに住む往年のオペラスターたちが全盛期を思い出して語り歌う姿をとらえたドキュメンタリー映画

 

映画は、監督のシュミットが撮影のために「ヴェルディの家」に入っていくところから始まるが、そこに住む人々はいずれもかなり高齢ではあるものの、みなさん男はネクタイにスーツ、女性も着飾っていて、背筋も伸びてシャンとしている。

やがて男女が集まってきて、ピアノが弾かれ、歌を歌い出すシーンがあるが、男性のテノール、女性のソプラノが実に伸びやかでプロなみの声の響きに驚く。それもそのはず、ここに住んでいるのは、かつてミラノの歌劇場などに出演していたオペラのソリストや合唱団のメンバーなのだ。

加齢にともなってシワが増え、足や腕の筋肉は衰えるなど身体機能は低下していくものだが、声帯は歌い続けていれば、つまりノドの筋肉運動を怠っていなければほかの機能より老化は遅いといわれる。事実、日本のプロ歌手でも70、80になっても元気よく歌っている人がいるが、本作に登場する往年のスターたちの歌声に圧倒される。

映画に登場しているのは1920年代のミラノ・スカラ座の花形オペラ歌手、サラ・スクデーリ、作曲家のジョヴァンニ・プリゲドャ、テノール歌手のレオニーザ・ベロン、「リレット」を得意としたジュゼッペ・マナキーニなどで、それぞれの得意とする曲を披露している。

スクデーリは50年も前に引退していて、本作出演当時79歳。老齢のため歌うことを止められていたが、自信満々の表情で歌っている。やっぱり、歌とともに生きている人はいくつになっても美しい。

 

ヴェルディの家」は正式名称を「Casa di Riposo per Musicisti(音楽家のための憩いの家)」といって、「椿姫」や「アイーダ」で知られるヴェルディがオペラ人のために建て、彼の死後の1902年に開業した養老院。ヴェルディの墓も敷地内にある。

入居条件は必ずしもオペラに関係してなくてもいいらしく「音楽に関わりのある人」。年金の8割を払えば貧富に関係なく居住が可能。著名な音楽家でも晩年は生活に困窮する人が多い実情を見てきたヴェルディが、音楽家の老後の安心のために私財を投じて建設したという。

彼は晩年、友人に宛てた手紙の中で次のように述べている。

「私のすべての作品の中で、私が最も喜ばしいのは、幸運に恵まれていない年配の歌手や、若いころにお金を貯めるという美徳がなかった年配の歌手を保護するためにミラノに建てたカーサです」

2019年9月時点のデータだが、入居者は70人。うち健常者45人、介護者25人で、ほかに音大生が男女8人ずつ16人住んでいる。彼らは入居者から音楽のアドバイスを受けるとともにホールで一緒に演奏をすることもあるという。

しかし、初期のころはヴェルディ著作権収入があってそれで賄っていただろうが、ヴェルディの死後100年以上がたって維持費はどうしているのかというと、今は居住者からの家賃に加えて、施設の理念に共鳴する音楽家たちからの多額の寄付があり、寄付者の中にはパバロッティの名もあるという。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「マンハッタン・ラプソディ」。

この映画の最後に登場していたのも、パバロッティ。

1997年の作品。

原題「THE MIRROR HAS TWO FACES」

監督・製作・主演バーブラ・ストライサンド、ほかに出演ジェフ・ブリッジスローレン・バコールピアース・ブロスナン、ミミ・ロジャースほか。

 

フランス映画「両面の鏡」(アンドレ・カイヤット監督、58年)のリメイクで、現代の悩める恋人たちの姿をユーモラスに描いたロマンチック・コメディ。

 

美人と評判の妹に比べて自分の容姿に自信がなく、中年になるまで一度もロマンスを体験していないコロンビア大学の文学部教授ローズ(バーブラ・ストライサンド)が、かつての苦い失敗からセクシーな美女を見ただけでめまいを起こす同じ大学の数学科教授グレゴリー(ジェフ・ブリッジス)と出会う。

やがて2人は結婚するが、過去のトラウマで恋愛恐怖症になってしまったグレゴリーが望むのは、セックス抜きのプラトニックな愛。しかし、女性として不満を抱くローズは、彼の気持ちを変えるため魅力的な女性になる決心をするが・・・。

 

原題の「THE MIRROR HAS TWO FACES」とは、フランス映画の「両面の鏡」を踏襲しているのか、「鏡には2つの顔がある」というわけで、美醜にこだわり、セックスに惑わされる人間の迷いを皮肉っているのか。

 

映画の最初の方に、笑わせるんだけど教訓的な場面があり、独り身の自分を癒そうとグレゴリーがテレフォンセックスみたいな怪しげな電話を利用するシーン。

電話なので相手の顔も様子もわからない。電話の向こうでは、セクシーな声で「今、熱いシャワーを浴びて体を拭いてるところなの」とかいうのだが、実際は太めのおばさんふうの女性があやとりしながら話をしていて、「人生ってとても複雑で思うようにならないものなのよ」と語りかけてくる。

いかに人は見せかけだけでコロリとだまされやすいかを、このシーンが見る者に笑わせながらも教えてくれる。

 

映画のエンディングで流れてくるのが、ズービン・メータ指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団演奏でパバロッティが歌う「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ作曲「トゥーランドット」より)。

たしかにヨリを戻したローズとグレゴリーが、真夜中のマンハッタンの路上で走ってくる車を止めたりしながら踊りまくっているから、近所の人は安眠できないに違いない?

 

民放のBSで放送していたアメリカ映画「ROCK YOU! ロック・ユー!」

2001年の作品。

原題「A KNIGHT'S TALE」

監督・脚本ブライアン・ヘルゲランド、出演ヒース・レジャーマーク・アディルーファス・シーウェルポール・ベタニーほか。

 

14世紀ごろの中世ヨーロッパを生きる若者たちの群像を描きながら、ロックをBGMに、まるで現代の青春映画を思わせるような“騎士道”映画。

騎士の付き人をしていた貧しい屋根葺き職人の息子ウィリアム(ヒース・レジャー)は、主人の老騎士が突然死したため、兜をかぶって主人になりすまして馬上槍試合に出る。未経験ながらも勝利を収めたウィリアムは、騎士としての立身出世を目指すようになり、当時、ヨーロッパで流行していた馬上槍試合の世界に飛び込んでいく。

しかし、試合には爵位がないと出場できないため、当時まだ無名だったイングランドの詩人ジェフリー・チョーサーポール・ベタニー)(のちの中世英文学の傑作とされる「カンタベリー物語」の著者)と出会って彼に証明書を偽造させ、ウルリッヒ・フォン・リヒテンシュタイン卿を名乗り、各地で試合を荒らしまくって勝利を重ねていくが・・・。

 

邦題の「ROCK YOU! ロック・ユー!」は原題とはまるで関係なく、主人公が試合に出場するシーンのBGMで流れてくる曲がイギリスのロックバンド・クイーンの「ウィ・ウィル・ロック・ユー」なので、それにあやかったという、実に安易な題名。

原題の「A KNIGHT'S TALE(騎士の話)」は、映画にも登場するチョーサーの同名作品からとられている。

 

チョーサーの時代、イギリスでは教会ではラテン語、貴族の間ではフランス語が“公用語”だったが、チョーサーは世俗の言葉である英語(当時のロンドンの方言)を使って物語を執筆した最初の文人といわれていて、「英詩の父」とも呼ばれる。

主著の「カンタベリー物語」は、イングランド国教会の総本山カンタベリー大聖堂へと向かう巡礼者たちの話をまとめた説話集。

「A KNIGHT'S TALE」は最初に出てくる話で、騎士が語る話によれば、舞台はギリシャ神話の時代。捕虜となって牢獄に閉じ込められた2人の騎士がいた。2人は友人だったが、牢獄の窓から見た王女に2人とも恋をしてしまい、不和になる。そこで王の提案により、馬上槍試合をして勝った方が王女と結婚できることになるが・・・という話。

この話にはいろいろ教訓的な話が散りばめられているらしいが、本作では小難しい話はすっ飛ばして、青春アクション映画に仕立てている。