善福寺公園めぐり

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きのうのワイン+映画「仕立て屋の恋」他

イタリア・プーリアの赤ワイン「ネプリカ・プリミティーヴォ(NEPRICA PRIMITIVO)2019」

(写真はこのあとメイン料理の豚三枚肉のグリル)f:id:macchi105:20211001074451j:plain

イタリア・ワインのトップ企業、アンティノリがプーリア州で設立したワイナリー、トルマレスカのワイン。

ネプリカ・シリーズは、ネグロアマーロとプリミティーヴォ、カベルネソーヴィニョンの頭文字を取ったプーリア州の魅力を気軽に愉しめるシリーズだとか。

きのう飲んだのは、甘味を感じる果実味と豊かな酸味が特徴のプリミティーヴォ100%。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたフランス映画「仕立屋の恋」。

1989年の作品の4K修復版。

原題「MONSIEUR HIRE」

監督パトリス・ルコント、音楽マイケル・ナイマン、出演ミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネール、リュック・テュイリエほか。

 

テレビで録画しておいた同じパトリス・ルコント監督の「髪結いの亭主」を最近になって観て、ぜひともその1年前につくった「仕立て屋の恋」も観たいなと思っていたら、ちょうどテレビ放送していたので録画して観た。音楽も同じマイケル・ナイマン

 

パトリス・ルコント監督はパリ出身で、1947年生まれだから今年74歳。本作は42歳のときの作品ということになる。

フランスの高等映画学院(IDHEC)で映画監督になる勉強をしたが、卒業後は漫画家またはイラストレーターとして漫画雑誌社で働く。1975年、28歳のときに初めて長編映画を製作。以来、コメディからアクションまで幅広いジャンルの映画を製作し、小説も執筆している。「仕立屋の恋」「髪結いの亭主」はいずれも官能的なラブストーリーだ。

彼はジャポニズムにひかれてるのか、日本にはもう15回ほどきているんだとか。この数は2013年の時点だから、その後も来日しているかもしれない。

 

原題の「「MONSIEUR HIRE」」は直訳すれば「イール氏」。「メグレ警視」シリーズなどで知られるジョルジュ・シムノンの小説を映画化。

 

若い女性の他殺死体が見つかり、容疑者として仕立て屋の中年男イール(ミシェル・ブラン)が浮上する。極端に几帳面で人嫌いなイールには性犯罪の前科があったからだ。そんなイールの唯一の楽しみは、向かいの部屋に暮らす若く美しい女性アリス(サンドリーヌ・ボネール)の私生活を覗き見ることだった。

イールは彼女に恋をしていたが、彼女にはエミール(リュック・テュイリエ)という恋人がいることも知っていた。そんなある夜、アリスはイールが自分の部屋を覗いていることに気づく。初めは気味悪がっていたアリス。逆に彼女の方からイールに近づいていく。

実は殺人事件があった夜、エミールがアリスの部屋にやって来たのを目撃したイールは、エミールが犯人であることも、アリスが事件の隠蔽に協力していたことも知っていたのだ。

アリスは、イールが事件のことをどこまで知っているのかを確かめるため、イールに接近していくが・・・。

 

ちょっとばかりイールに気があることを見せがらも、結局は自分が惚れた男を守るため、イールを殺人犯に仕立て上げて警察に引き渡そうとするアリス。それでも共犯者の彼女を救い、一途な恋を成就させようとするイール。

この映画は中年男の純愛物語であり、純愛であるからこその悲劇だった。

 

その証拠が、映画の中で随所に流れるマイケル・ナイマン編曲によるブラームスの「ピアノ四重奏曲1番」の第4楽章だ。

「ジプシー風ロンド」と呼ばれる曲で、第1主題に続く第2主題のロンドが、イールがアリスの部屋を覗き見するたびに繰り返し流れる。やさしく美しいそのメロディーは、覗き見が決していやらしい下心からではなく、純粋に彼女に恋しているからだということを暗示している。

 

そういえば、「髪結いの亭主」では中東の音楽が効果的に使われていて、あれもジプシー音楽っぽかったが、本作の曲も「ジプシー風ロンド」だった。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたアメリカ映画「世界一不幸せなボクの初恋」。

2019年の作品。

原題「ODE TO JOY」

監督ジェイソン・ウィナー、出演マーティン・フリーマンモリーナ・バッカリン、メリッサ・ラウシュ、ジェイク・レイシーほか。

 

ラジオ番組で2010年に紹介された実際のエピソードにもとづく映画という。

原題の「ODE TO JOY」とは、ベートーヴェン交響曲第9番の第4楽章で歌われる「歓喜の歌」のこと。

ベートーヴェンといいブラームスといい、2作続けて名曲がらみ。

 

ニューヨークで暮らす図書館司書のチャーリー(マーティン・フリーマン)は、「喜び」を感じると硬直して失神してしまうキャプレクシー(情動脱力発作)という病気を抱えている。このため彼は毎日、不幸せな状態を保つように努力しなければならず、通勤時はヘッドフォンで「葬送行進曲」を聴き、常に悲しいことを考えながら歩いている。

ある日の図書館で、付き合っていた男とケンカして大騒ぎする美女フランチェスカモリーナ・バッカリン)と知り合い、デートすることになる。ところが、フランチェスカの家に誘われ、階段を上っているとき、幸せのあまりに失神転倒。病院に担ぎ込まれてしまう。

それでも好意を寄せてくれるフランチェスカにチャーリーは悩む。彼女への思いを押し殺して平穏な毎日をすごすか、それとも命懸けの恋をするか・・・。

 

こんな話、ホントにあるのかなと思ったら、キャプレクシー(情動脱力発作)というのはナルコレプシーの代表的な症状の1つで、稀ではあるが実際にある病気だという。

ナルコレプシーは、日中に突然、耐え難い眠気に襲われて眠り込んでしまう病気。日本の著名人では作家の色川武大阿佐田哲也)がこの病気にかかっていたことが知られているし、小説の世界では佐藤雅美の「物書同心居眠り紋蔵」シリーズの主人公、藤木紋蔵はナルコレプシーということになっている。

 

ナルコレプシーの代表的な症状がキャプレクシーで、笑ったり、怒ったり、恐怖を感じたりして感情が高ぶったあとに体が脱力してしまう症状を引き起こす。笑いや冗談が引き金になって急に首や顎、腕、脚、または全身の力が抜けて、頭がグラグラしたり、ろれつが回らなくなったり、ひどい場合は全身が崩れ落ちるようになる。それで情動脱力発作と呼ばれるというわけだ。

日本人のナルコレプシーの有病率は1万人当たり16人~18人という研究報告があるが、一般的には約600人に1人といわれていて、多くは思春期に発症する。すべての人種で発症が見られるが、日本人の有病率は世界で最も高く、最も低いのはイスラエルユダヤ人)といわれている。

 

原因は多くの場合、オレキシンをつくる神経細胞が働かなくなることにより生じるとされている。オレキシンは脳の視床下部でつくられる神経ペプチド。脳内で神経間の情報を伝える物質として働いていて、覚醒を安定的に維持してナルコレプシーを抑制するほか、摂食・代謝の亢進、報酬に対する応答の亢進などの機能が知られているそうだ。

しかし、なぜオレキシンをつくる神経細胞が働かなくなるかは不明。したがって根治治療もまだないという。それでも、年月がたつうちにだんだんと症状が軽くなることが多いので、病気と上手に付き合いながらQOL(生活の質)の向上をはかり、根気よく治療を続けることが大切という。

ちなみに映画もめでたくハッピーエンドで、最後に鳴り響いたのが「歓喜の歌」だった。