善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

きのうのワイン+映画「天守物語」「白鯨」他

イタリア・バジリカータの赤ワイン「アリアニコ デル ヴルトゥレ(AGLIANICO DEL VULTURE)2018」

(写真はこのあとメインのポークピカタ)f:id:macchi105:20210918075323j:plain

バジリカータ州はイタリア南部に位置し、北東にはプーリア州、北西はカンパーニア州、南はカラブリア州に接し、イタリア半島を長靴に例えるとちょうど土踏まずの部分。山岳地帯が州の面積の47%を占め、丘陵地帯が45%、平野部は8%しかないという。

それゆえにブドウ栽培に適していて、このワインのブドウ品種はギリシャ原産のアリアニコ。この地域の発展は古代ギリシャ人が植民したことに始まるというから、ワインづくりもそのころから始まっているのかもしれない。

 

ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたシネマ歌舞伎天守物語」。

2009年に歌舞伎座で上演されたものを「シネマ歌舞伎」として映像化した作品。

出演・板東玉三郎市川海老蔵中村勘九郎上村吉弥市川猿弥、市川門ノ助、中村獅童片岡我當ほか。

 

泉鏡花による戯曲で、白鷺城(姫路城)天守閣の最上階に異形の者たちが住むという伝説に由来する。鏡花はこの伝説にその他の怪異譚を巧みに織り交ぜて、美しい異界の人とこの世の人間との恋物語を描いている。

 

あらすじは――。

白鷺城の最上階にある異界の主こと天守夫人の富姫(玉三郎)が侍女たちと語り合っているところへ、富姫を姉と慕う亀姫(勘九郎)が現れ、宴を始める。その夜、鷹匠の姫川図書之助(海老蔵)は、藩主播磨守の鷹を逃した罪で切腹するところ、鷹を追って天守閣最上階に向かえば命を救うといわれ、天守の様子を窺いにやってくる。
富姫に二度と来るなと戒められて立ち去るが、手燭の灯りを消してしまい、再び最上階へと戻り火を乞う。すると、富姫は最上階に来た証として藩主秘蔵の兜を図書之助に与えるが、この兜から図書之助は賊と疑われ、追われるままに三度最上階へ戻ってくる。

いつしか図書之助に心奪われて彼を匿った富姫だったが、異界の人々の象徴である獅子頭の目を追手に傷つけられ、2人は光を失ってしまうが・・・。

 

姫路城そのものは南北朝時代に築城されたといわれるが、現在のように大規模な城郭にしたのは1601年(慶長5年)に入封した池田輝政で、天守閣が築かれたのは1609年(慶長14年)。姫路城には日本で唯一、天守閣に神社があり、長壁(おさかべ)神社(刑部神社とも)と呼ばれている。

祀られているのは刑部親王とその王女の富姫。もともと姫路域が位置する姫山に地の神として祀られていて、築城後に姫路城天守閣に移ってきたが、さまざまな伝説が語り継がれている。

伝説によれば、天守閣にはここを根城にした姫の姿をした妖怪がいて、城内に怪異を起こすとして恐れられていたという。有名な話としては、城主の池田輝政が病に伏した際、祈祷をしていた阿闍梨の前に姫があらわれ、止めるように促したのを拒否すると鬼人に変じて阿闍梨を蹴り殺したとか、肝試しとして夜中の天守閣に上ってきた森田図書という小姓の勇気を讃えて兜の錣を与えたなどがある。妖怪を恐れず天守の夜番を勤めたというので宮本武蔵に銘刀を授けたという話まである。

 

そうした伝説をもとに泉鏡花が戯曲にしたわけだが、彼は小説だけでなく戯曲にも才能があったようで、歌舞伎の演目として何度も舞台にかかっていて、6代目中村歌右衛門も富姫を演じていた。

 

ちなみに、夜中に悲しげな声で「いちま~い、にま~い」と数えるお菊さんの皿屋敷伝説も姫路城が舞台で、「播州皿屋敷」として有名。実は、皿屋敷伝説は姫路城だけでなく全国にあって、江戸では「番町皿屋敷」が知られているが、播州と番町、なぜか似ている。

 

ついでにその前に観た映画。

民放のBSで放送していたイギリス映画「白鯨」。

1956年の作品。

監督ジョン・ヒューストン、出演グレゴリー・ペック、リチャード・ベースハート、レオ・ゲン、オーソン・ウェルズほか。

 

ハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」を映画化。

1841年、風来坊の青年イシュメール(リチャード・ベースハート)が冒険を求めて捕鯨船ピークォッド号に乗り込んで、大海原に出た。船長は、顔に深い傷を負い、クジラの骨でできた義足をつけたエイハブ(グレゴリー・ペック)だった。

モビー・ディックと呼ばれる白鯨、白いマッコウクジラに片足を食いちぎられたエイハブは復讐に燃えていた。冷静な一等航海士のスターバック(レオ・ゲン)は船長を諫めるが、モビー・ディックを悪魔の化身とみなし、報復に執念を燃やす狂気と化したエイハブは聞く耳を持たず、乗組員たちに白鯨を仕留めることを誓わせる。

捕鯨船は大荒れの海を乗り越え、ついに宿敵の白鯨がその巨大な姿を現す。エイハブの指揮するボートを先頭にスターバックらが続き、決死の覚悟で追跡を続ける中、白鯨は海中に沈む。やがて、それまで静かだった海面が割れ、水柱が立ち、モビィ・ディックが真っ向からエイハブに挑んでくる・・・。

 

グレゴリー・ペックの鬼気迫る熱演が見どころ。

ローマの休日」や「大いなる西部」「アラバマ物語」など、理知的で正義感あふれるような役柄の印象の強いグレゴリー・ペックだが、本作や、のちの「オーメン」など、けっこう幅広い役ができる俳優だったようだ。

 

ちなみに、コーヒーショップチェーンの「スターバックス」の名前は、「白鯨」に登場する冷静沈着な一等航海士スターバックに由来しているという。

 

NHKBSで放送していたドイツ映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜

2004年の作品。

原題DER UNTERGANG

監督オリヴァー・ヒルシュビーゲル、出演ブルーノ・ガンツアレクサンドラ・マリア・ララユリアーネ・ケーラーほか。

原題の「DER UNTERGANG」はドイツ語で「失脚」「没落」の意味という。

 

独裁者アドルフ・ヒトラーがベルリン地下の要塞で過ごした最期の12日間をドキュメンタリータッチで描く歴史ドラマ。歴史家ヨアヒム・フェストの同名ノンフィクションと、ヒトラーの個人秘書だったトラウドゥル・ユンゲの証言と回想録「私はヒトラーの秘書だった」をもとに映画化。

 

1942年、22歳だったミュンヘン出身の女性ユンゲは、ナチス総統ヒトラーの個人秘書として働くことになった。そして1945年4月20日、ベルリン。ヒトラーは迫りくるソ連軍の砲火から逃れるため、側近たちとともにドイツ首相官邸の地下要塞に避難する。その中にはユンゲの姿もあった。

誰もがドイツの敗戦を悟っていたが、ヒトラーだけは別だった。多くのベルリン市民が戦争に巻き込まれて死んでいくことなど意に介さず、「第三帝国」の夢を捨てきれずにヒステリックに支離滅裂な命令を出していく。また、それまでヒトラーを信奉していたまわりの者も、負けるとわかっていてもただヒトラーに従うだけ。ソ連軍が迫ってきても、思考停止に陥った彼らは、酒を飲み、どんちゃん騒ぎをすることで現実から逃れるのだった。

 

ヒトラーをはじめ、地下要塞に立てこもっていた者たちはほとんどがそこで自決したりして死ぬか、捕虜となって裁判にかけられたりしたが、秘書のユンゲは逃げのびて、その後、罪にも問われなかった。

後年、ユンゲは「恐ろしい怪物の正体に私は気づけなかった」と語っているが、映画の最後に映し出されたインタビューの中でこう述べているのが印象的だった。

「そのころ私は若かったが、それはいい訳になりません。目を見開いていれば気づいたはずなのです」

それはいつの時代でも、どこの国でも当てはまる。