善福寺公園めぐり

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仁左衛門・玉三郎の「桜姫東文章」

歌舞伎座「四月大歌舞伎」第3部を観る。

 

午後6時開演というので、その前に銀座の「泰明庵」で白魚天盛りそば。f:id:macchi105:20210413132431j:plain

 

今月の歌舞伎座もコロナ対策のため、幕間ありの三部制、客席数50%を維持しての上演。第3部は鶴屋南北作「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」。f:id:macchi105:20210413132512j:plain

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すでにチケットは全日完売。それもそのはず、仁左衛門の清玄/釣鐘権助玉三郎の白菊丸/桜姫という配役で、2人がこの演目で共演するのは実に36年ぶりというから伝説の舞台の復活ということになる。

桜姫の弟役で仁左衛門の孫の千之助が出演している。

 

客席は満員(といっても客席の前後左右は空席。ごく一部2つ続きもあるが)。圧倒的に女性客が多い感じ。

前から2列目、花道寄りの席だったので役者が間近に見える。

 

今月は前半の上の巻で、発端の江の島稚児ヶ淵、序幕新清水花見、桜谷草庵、二幕目稲瀬川、三囲神社の鳥居先。

発端は、修行僧の清玄と稚児の白菊丸とが男同士の恋に落ち、この世で結ばれるのが叶わぬならあの世でと、心中を決意。2人は香箱の蓋と本体に名前を書いたのを、愛の証(あかし)としてそれぞれ肌身離さず持つことにしたが、海岸にやってきて白菊丸が先に海に飛び込んだものの、清玄は高所恐怖症なのか気後れして飛び込めず、泣くばかり。

それから17年後の鎌倉・新清水寺の境内。吉田家の息女桜姫は、生まれながらに左手が開かぬ奇病ゆえ縁談も決まらず、父親も、双子の兄弟の弟も何者かに殺されて家の重宝都鳥の一巻は行方不明となり、御家断絶の危機。将来の望みを失った17歳の桜姫は出家しようとする。

事情を聞いて同情したのが、今は高僧となった清玄。念仏を唱えると姫の左手が開き、中から香箱がこぼれ落ちる。ところが、そこに刻まれていたのは「清玄」の文字。ということは、この香箱は17年前に清玄と心中を図った白菊丸が持っていたものであり、桜姫は白菊丸の生まれ変わりだった・・・。

 

場面変わって寺の境内にある草庵。奇病が治ったのなら結婚も可能となるはずだが、それでも出家を諦めない桜姫のもとに、吉田家の御家乗っ取りをねらう悪者の仲間、権助がやってくる。最初は取りあわなかったものの、権助の腕の彫り物を見て驚く桜姫。人を遠ざけて2人っきりになったところで、桜姫が恥ずかしそうに袖をまくると、ナント姫の腕には権助のと同じ釣り鐘と桜の彫り物。

実は、権助は以前、吉田家に忍び込み都鳥の一巻を盗み取った張本人。さらに権助は姫を犯して関係を持ったのだが、姫は初めての男が忘れられず、権助の腕にちらりと見えた彫り物をまねて、自分の腕にこっそりと同じ彫り物を入れていた。しかもそのとき権助の子種を宿り、男の子が生まれて人知れず養子に出していたのだった。

ついに想う人と再開した桜姫、互いに帯を解き合っての濡れ場となる(もちろん御簾が下ろされて観客には見えない)が、それが発覚して大騒ぎとなる。権助はすぐに逃げるが、密会の相手は誰だと問い詰められ、権助をかばいたい桜姫は名前をいおうとせず、姫がずっと持っていた香箱に「清玄」と書かれてあったことから清玄が疑われる。桜姫が白菊丸の生まれ変わりと信じる清玄は、桜姫のためならと罪をかぶり、不義は御法度というので桜姫とともに寺を追われるのだった。

 

百叩きのうえ非人に落とされた清玄と桜姫。他人に預けた赤子は、「これ以上は育てられぬ」と突き返され、姫の元に返された。清玄は姫にいっそのこと夫婦になろうと迫るが、権助を忘れられない姫は拒み続け、ついには混乱の中、赤子を置いたまま逃げてしまう。

冷たい雨の降る夜、浮浪者同然となった清玄が桜姫の赤子を抱きながらとぼとぼとやってくる。やがて桜姫も、蓑笠に身を隠しながらあらわれる。

清玄は桜姫に、桜姫はわが子に会いたいとさすらう2人。一瞬再会かと思ったら、結局は互いに気づかずにすれ違っていく。

6月の歌舞伎座では、この続きの「下の巻」が上演される予定という。

 

下の巻では、権助に惚れた桜姫は小塚原の女郎に売られ、「風鈴のお姫」と呼ばれるほどになるが、高貴な生まれのお姫さまが実は稚児の生まれ変わりで、好きな男のいわれるまま女郎になるという、輪廻転生と貴種流転、それに御家騒動が加わっての奇想天外な物語。それが悪の魅力と頽廃美とで彩色された、いかにも南北らしい作品。

玉三郎の美しさとともに、高貴な役もヤクザ男も、どれもほれぼれする仁左衛門のすばらしさを堪能した夜だった。