善福寺公園めぐり

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歌舞伎座「日本振袖始」+銀座「和もと」

歌舞伎座十二月大歌舞伎、第四部の「日本振袖始(にほんふりそではじめ)大蛇退治」を観る。

 

地下鉄を降りて歌舞伎座の地下から1階を結ぶエスカレータに乗っていたら、「農口尚彦研究所」の広告がズラリと並んでいた。f:id:macchi105:20201204112425j:plain

農口さんといえば「酒づくりの神様」ともいわれる杜氏さん。かなりお年を召されているはずだが、今も酒造りにがんばっているようだ。

 

開演が7時15分なのであたりはもう暗く、夜の歌舞伎座f:id:macchi105:20201204112446j:plain

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当初の予定では岩長姫実は八岐大蛇(やまたのおろち)・坂東玉三郎稲田姫中村梅枝、素盞嗚尊(すさのおのみこと)・尾上菊之助という配役だったが、コロナ感染した片岡孝太郎の濃厚接触者ということで玉三郎が7日まで休演となり、それまでは岩長姫実は八岐大蛇・尾上菊之助稲田姫中村梅枝、素盞嗚尊・坂東彦三郎に変更となった。

 

玉三郎が岩長姫をやるというので期待して切符を買ったが、菊之助ファンとしては、菊之助の岩長姫を見られたのもまたよかった。

それにしても、もともとの配役が素盞嗚尊・菊之助で幸いしたといえる。菊之助は立役も立女形もできる役者。もともと素盞嗚尊が彦三郎だったら、女形ができる役者を別に探して代役に立てなければいけないところだった。女形の大役である岩長姫ができる役者はそうはいないだろう。

 

この作品、「日本書紀」や「古事記」の神話の世界に由来する素戔鳴尊の大蛇退治に題材をとった近松門左衛門作品。原作は享保3(1718)年に人形浄瑠璃で初演された。

五段からなるが、現在歌舞伎や文楽で主に上演されるのは五段目部分にあたる今回と同じ「大蛇退治」の場面。1971年に6代目中村歌右衛門歌舞伎舞踊として復活させ、玉三郎は98年に歌舞伎座で新たな振付で初演して以来、回数を重ねてきていて、今回の舞台も玉三郎の演出によるものだろう。

 

出雲国を流れる簸の川の川上。昼でも暗い山奥には8つの頭をもつ大蛇・八岐大蛇が棲んでいた。村人はその祟りを恐れて毎年1人ずつ美しい娘を生贄に差し出していて、今年の生贄は長者の娘・稲田姫

稲田姫が悲しんでいるところへ美女を憎む岩長姫が現れるが、その正体こそ八岐大蛇で、かつて素戔嗚尊から十握(とつか)の宝剣を奪って体内に飲み込んでいた。稲田姫を襲おうとした岩長姫はふと酒の香りに気付くと八つのカメに入っていた酒を次々に飲み干し、ついに稲田姫を飲み込む。

そこに稲田姫の恋人・素戔嗚尊が駆け付けてくる。実は岩長姫が飲んだ酒は毒酒で、岩長姫は大蛇の本性を顕し、素戔嗚尊と激しく戦う・・・という物語。

稲田姫は生贄になる直前、脇あけの袖に太刀を一振り忍ばせていて、「脇あけを振袖とはこの時よりぞ始まりける」と近松門左衛門の台本にあって、それで題名が「日本振袖始」。

 

菊之助の岩長姫がキリッとしていて美しい。

本性を顕した大蛇と素戔嗚尊との立ち回り大蛇の分身も加わって迫力満点。

楽しい舞台の夜をすごした。

 

帰りは歌舞伎座近くの「和もと」でイッパイ。f:id:macchi105:20201204112611j:plain

ワイワイうるさいチェーン居酒屋と違い、家族的雰囲気で落ち着いて飲める店。久しぶりの訪問だったが、店主との会話も楽しい。

サッポロの赤星ビールのあとは日本酒「白鶴」をお燗してもらう。

料理は、まずはお通し。

右端の青森・十和田のゴボウのみそ漬けが美味。f:id:macchi105:20201204112551j:plain

天然マダイの薄造り。フグの薄造りみたいにして食べる。f:id:macchi105:20201204112637j:plain

この店の名物料理の1つという東波(とうば)豆腐。f:id:macchi105:20201204112703j:plain

正しくは「東坡」と書くらしいが、北宋の詩人、蘇東坡が好んだという故事にちなんだ料理だとか。

 

カニの甲羅揚げ。f:id:macchi105:20201204112729j:plain

これもこの店独自の味付けで、何とソース味。おいしくいただきました。