善福寺公園めぐり

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ピナ・バウシュ 夢の教室

東京・銀座にある「メゾン・エルメス」の10階にあるプライベートシネマ「ル・ステュディオ」でドイツのドキュメンタリー映画ピナ・バウシュ 夢の教室」を観る。監督アンネ・リンゼル。

写真はパンフレットより。

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同シネマはテーマを決めて上映する映画をセレクトしていて、11月は子どもの夢をめぐる物語がテーマ。

世界的な舞踏家であるピナ・バウシュのもとに集まったダンスも演劇も経験のない40人のティーンエイジャーが、ダンスを学び、互いに切磋琢磨し、1つの舞台をつくり上げるまでを描いたドキュメンタリーだ。

 

ピナの呼びかけのもと、集まったのは演劇好きの少年やロマの子、不慮の事故で父を亡くした少女やヒップホッパーなど。性格も家庭環境もバラバラで、ピナの名前すら知らない彼らに共通するのは、誰1人としてダンスを習った経験がないこと。そんな彼らがめざしたのは、10カ月後にピナ・バウシュの代表的作品「コンタクトホーフ」の舞台に立つことだった。

この計画を実現させるため、ピナが芸術監督をつとめるヴッパタール舞踊団で活躍したダンサー、ベネディクト・ビリエとジョセフィン=アン・エンディコットによる毎週土曜の猛特訓が始まり、ピナも何度も稽古場に足を運んで子どもたちの成長を見守る。

 

しかし、「コンタクトホーフ」とは「ダンスの概念を超えた」といわれるピナの代表作の1つ。人と人とのコンタクト(触れ合い)がテーマだと思うんだけど、何しろコンテンポラリー・ダンスという前衛的なダンスだけに踊りの定型があるわけでもなく、表現するのはプロでもかなり難しい作品だと思う。求められるのは決まりきった表現ではなく、より人間的で自由な身体表現。

なるほど、だからこそピナはあえてダンスなんか踊ったことのない、ピュアな心をもった子どもたちを集めたのか。子どもたちを教えるというより、ピナ自身が子どもたちから新しい表現を学ぶために今回の企画を発案したのかもしれない。

 

映画の最後のシーン。ついに夢の舞台を実現させ、カーテンコールでピナは1列に並んだ子どもたちに花を1本1本プレゼントしていくが、1人の女の子がピナのほっぺに特大のチューをした。最後の1本を渡して振り返ったピナのぽっぺには真っ赤なキスマークがついていて、はにかみながら舞台を去る姿がとても印象的だった。

 

気になったのは映画の中で、レッスンに姿を見せたピナが常にタバコの煙をくゆらせていたことだった。彼女が吸っていたのは「キャメル」だった。

 

映画は2010年に公開されたが、ピナ・バウシュはその前年の09630日、68歳で世を去ってしまった。本作は彼女の生前最後の映像を収めた貴重なドキュメンタリーだという。

彼女は亡くなるわずか5日前にがんと診断された。病名は肺がんだったという。