善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

昆虫はすごい

丸山宗利『昆虫はすごい』(光文社新書)を読む。

読後感はただ一言、昆虫はすごい!
筆者は九大総合研究博物館の助教。アリやシロアリと共生する昆虫の多様性解明が専門という。

昆虫の頭のよさを証明するエピソードがてんこ盛り。

たとえば──。
獲物を食べるとき、難しいのは保存。人間だって冷蔵庫がなかった時代は、すぐ食べるか塩漬けにするしかなかった。
一方、何万年の昔(いや何百万年か)から、高度な獲物の保存技術を持っているのが昆虫。特に狩りバチは独自の保存方法を編み出した。それは麻酔である。毒針を使った麻酔により獲物を仮死状態にし、まったく鮮度を落とさないまま長期にわたって保存する。

クロアナバチの雌は地面に坑道を堀り、最初に巣を作る。それからツユムシというキリギリスの仲間を探しに出かける。ツユムシを見つけると、ツユムシの中枢神経に影響を与える微妙な量の毒を打ち込み、長期間働きを止める麻酔をする。そのツユムシを抱えて巣に運び、卵を産んで埋める。
孵化した幼虫はツユムシをゆっくり食べて成長する。その際、殺さない程度に食べ進み、最後に一気に食べて完食するという。

セナガアナバチ属のハチは、ゴキブリを専門に狩り、幼虫はそれを食べて成長する。ゴキブリを捕まえたハチは、2回に分けて毒を注入する。1回目は胸部神経節に注入し、前脚をおだやかに麻痺させる。2回目は逃げる反射行動を司る神経に刺す。
ゴキブリはハチより大きく、運ぶことができないが、この方法により獲物を自分で歩かせる。歩けるけれど逃げることをしないゴキブリ、つまり“ゾンビゴキブリ”を作り出し、触覚をくわえて巣穴まで誘導し、そのゴキブリに産卵する。

擬態のワザもすごいものがある。
日本にも生息するスカシバというガの仲間は、見事にアテナガバチやスズメバチなどのハチに擬態する。毒針を持つハチになりすますことで、捕食者に食べられないためである。
実はこのスカシバは数年前、わが家の近くでも目撃している。

ホタルはその種ごとに固有の光の点滅間隔によって雄雌で呼び合い、交尾を行う。この習性を利用する天敵がいて、北米にすむ肉食性のホタルの雌は、別種のホタルと同じ点滅信号を出し、それに誘引されたホタルの雄を捕まえて食べてしまう。そして同じ種の雄を誘うときは、同種のホタルに固有の信号を出し、雄を誘って交尾する。

交尾の仕方もさまざま。
ナンキンムシとして知られる吸血性のトコジラミの仲間は、雄は雌の腹部の適当な場所に陰茎を突き刺して、精子を送り込む。精子は血液を通じて雌の卵巣に当たる部分にたどり着き、受精を果たす。

時間を旅する昆虫もいる。
アフリカの乾燥地帯に生息するネムリユスリカの幼虫は、乾季になって生息地の水たまりが乾くと、水分3%の乾燥した状態で無代謝のまま休眠を行うことができる。そして、水を与えると復活する。
17年間ずっと乾燥状態だったものを水に戻し、再び動き出した例が確認されている。

昆虫の世界には「社会寄生」というのがある。
「社会寄生」とは、寄生する昆虫が寄生される昆虫のもつ社会性をもとに利益を得るといった種類の寄生をいうのだという。そこには「エメリーの法則」というのがあって、寄生する昆虫と、寄生される昆虫は、共通の祖先から分かれた近縁な関係にあるのだという。

寄生する昆虫の中には、巣の中で我が物顔で居候しつつ、中の成虫や幼虫を平気で食べてしまったり、中には、もともといる昆虫になりすましてエサを横取りするのもいるらしい。

昆虫の中にはアリのようにニオイ(化学成分)でコミュニケーションする種類があるが、これをうまく利用しているのがクロシジミというチョウの幼虫。
姿形はチョウの幼虫らしくイモムシだが、ニオイの成分をまねて雄のアリに「化学擬態」している。つまりチャッカリと雄アリになりすまして巣の中にもぐり込み、口移しでエサをゲットする。
雄アリは生殖だけが役目なので自分でエサをとって食べることができない。このため雌のクロオオアリは雄アリのニオイを発するクロシジミの幼虫のことを仲間の雄アリと勘違いし、エサを与え続ける。

昆虫恐るべし!