善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

定本 黒部の山賊 アルプスの怪

ワールドカップは1次リーグが終わって一休み。日本は残念な結果だったが、決勝トーナメントは楽しみな対戦が続き、目が離せない。

伊藤正一『定本 黒部の山賊 アルプスの怪』(山と渓谷社)を読む。

村上海賊の娘』を読んだあとだったからか、『黒部の山賊』の書名にひかれて手にとった。
読んでみたら、昭和の時代の山男の話だった。

著者は、北アルプスの最奥部・黒部原流域のフロンティアとして長く山小屋(三俣山荘、雲ノ平山荘、水晶小屋、湯俣山荘)の経営に携わってきた伊藤正一さん。大正12年(1923)生まれだから今年で91歳になるというが、今もお元気だという。

その伊藤さんが書き留めた、「山賊」と称された男たちとの交流を描いた北アルプス登山黎明期の昔話。
山賊というとブッソウだが、実は黒部の山奥でカモシカ、クマ、それにイワナなどを獲って生計を立てていた人たちのこと。特に“山賊の頭(かしら)”とされる遠山富士弥(明治20年生まれ、昭和43年没)は、カモシカ約2000頭、クマ約100頭を獲ったとかで、黒部の奥地でたった一人で越冬して平気だったという。晩年は大町市老人会長をつとめたとか。

山奥に棲むもバケモノたちとの不思議な出会いも興味深い。
山には人を化かすタヌキが本当にいるのだという。タヌキの鳴き声はというと「はて?」と思うが、タヌキは擬音を発するという。「嵐の音」「「雨の音」「ノコギリの音」「大木を倒す音」あるいは「米を研ぐ音」や「こんばんはゴンベエサン」という声など、いずれもタヌキの仕業で、「タヌキはこの種の音を出すのが得意なのではないだろうか」と伊藤さんは述べている。

山賊たちには「カッパの足跡」があるという言い伝えが存在するという。伊藤さんはその足跡を目撃し、写真にも撮っている。どうやら、その正体はカワウソらしい。

ほかにも、佐々成政埋蔵金伝説とか山岳遭難のエピソード、山小屋暮らしなど、黒部にまつわる話が盛りだくさん。

読んでいて、山、とくに北アルプス、それも山奥に行きたくなる本。といって、簡単には行けないが・・・。

ちなみにこの本は、もともと1964年に実業之日本社から刊行されたもの。その後、書店にはなくなり、手に入れたかったら山小屋まで行くしかない“幻の名著”となっていたのが、『定本 黒部の山賊』としてよみがえった。 伊藤さんは名カメラマンでもあったようで、貴重な写真がたくさん載っている。