善福寺公園めぐり

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歌舞伎座杮葺落四月大歌舞伎第3部

歌舞伎座の新開場杮葺落四月大歌舞伎を観る(8日の第3部)。

待ちに待った歌舞伎座新開場。
さすがに外観は新しい。
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中に入ると、1階ロビー(「大間」と呼ばれる)の狭さは相変わらず。でもその方が人がいっぱいいる感じで華やいだ気持ちになる。設計者は隈研吾氏だが、「可能な限りかつての雰囲気を残したい」と語っていたのを思い出す。
真新しい絨毯の模様が美しい。
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先代歌舞伎座の開場(1951年)当時使われた絵柄が再現されたのだそうで、京都・宇治の平等院鳳凰堂の中堂母屋に描かれた「咋鳥文様(さくちょうもんよう)」をモチーフに描かれているという。

バリアフリー化はかなり進んでいるようで、トイレの数も増えた。
1階の客席に入る。
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こちらも前の歌舞伎座と同じつくり。イスは若干大きくなったようだが、座り心地はあんまり変わってない。
空間は広がった。座っている人の前を通るのでも、以前のように窮屈ではなくなった。席からの眺めも前よりよくなった(以前は前に座高の高い人が座ると見にくかったが)。

客席は当然、満員で、和服姿の女性が目立つ。いつもはお年を召した女性が多いが、杮落としの今回はかなり幅広い客層で、若い男性・女性もけっこういた。

ところで前から気になっていたのが「杮葺落四月大歌舞伎」の「杮葺落」。
普通なら「杮落」と書くところをなぜ「杮葺落」とするのか。

そもそも「杮落」の「杮」とは食べるカキの「柿」(字も違う)ではなく、「材木を削るときにできる木の細片、削り屑」のことで、「(新築、改築工事の最後に屋根や足組みなどの「こけら(杮)」を払い落したところから)新築または改築された劇場で行われる初めての興行」と『日本国語大辞典』にある。

もっとも同書には「こけら(杮)」の意味として「削り屑」のほかに、「材木を薄くけずりはいだ板、こけら板」の意味もあげていて、このこけら板で屋根を葺くことを「杮葺」といい、「(こけら(杮)の)木片を意味する語は次第に「こっぱ(木っ端)に代わられ、「こけら」は屋根の葺板を指すことが多くなってった」と『日本国語大辞典』。「こけら」を「杮葺」と読んでもいいのだろう。

それに、歌舞伎の世界は縁起を担ぐ世界だ。歌舞伎の演目のことを外題(げだい)というが、外題の文字数は7とか5とか3とか奇数ばかり。なぜ偶数がよくないかというと、「2つに割れるから縁起が悪い」というわけだ。
それで「杮落」の2文字でなく「杮葺落」の3文字にしたのだろうし、興行名も「歌舞伎座新開場」「杮葺落四月大歌舞伎」と見事に7文字、9文字になっている。さすが!

さて肝心の芝居の内容。きのう見たのは第3部の夜の公演で、演目と配役は次の通り。

近江源氏先陣館 盛綱陣屋(もりつなじんや)

佐々木盛綱 仁左衛門
篝火 時蔵
早瀬 芝雀
伊吹藤太 翫雀
信楽太郎 橋之助
竹下孫八 進之介
四天王 男女蔵
同 亀三郎
同 亀寿
同 宗之助
高綱一子小四郎 金太郎
盛綱一子小三郎 藤間大河
古郡新左衛門 錦吾
微妙 東蔵
北條時政 我當
和田兵衛秀盛 吉右衛門


武蔵坊弁慶 幸四郎
源義経 梅玉
亀井六郎 染五郎
片岡八郎 松緑
駿河次郎 勘九郎
太刀持音若 玉太郎
常陸海尊 左団次
富樫左衛門 菊五郎

実は仁左衛門の「盛綱陣屋」は2010年10月に新橋演舞場で観ているが、前回に増して今回の仁左衛門がいい。前回観たとき和田兵衛は団十郎だったが、きのうは吉右衛門。 仁左衛門の陰と吉右衛門の陽が対になっていて見応えがあった。

仁左衛門は「盛綱陣屋」を「反戦劇」といっているが、たしかに、いかにしたら敵味方に分かれた弟を救うことができるかと悩む兄の姿を描いた物語であり、殺戮を憎む反戦の物語なのかもしれない。

首実検のときの無言の演技。きのうは仁左衛門の“情”を感じた。無言の中に感情の爆発があった。

子役のセリフが泣かせるが、藤間大河松緑の長男、金太郎は染五郎の長男。

勧進帳」の幸四郎は弁慶を演じてもう1000回以上という。
セリフは流れるようで淀みがなく、さすがにうまいが、年には勝てない。今年71歳。「勧進帳」は踊りも入ってかなりハード。幸四郎も最後の方ではかなりお疲れの様子。

朝日新聞の初日の劇評で、弁慶のとび六方のときに「手拍子が起こって熱気があった」みたいに書いていたが、歌舞伎の通からはものすごいブーイングが起きている。

「とび六方で手拍子とはまるで学芸会だ」とか「世も末だ」「江戸の美は消えたのか」とか、ウェブ批評で渡辺保氏も「花道のとび六方にかかるところで幸四郎がハアハアいっているのには驚いたが、もっと驚いたのは大太鼓の音に連れて客席に手拍子が起こったこと。折角の幸四郎必死の芸が台無し。そこに気が付かぬ観客の迂闊さ。行儀が悪すぎる」

しかし、きのうの幸四郎のとび六方を間近で見ていると、いかにもヨタヨタと六方を踏んでるように見えた。観客は同情して声援を送っていたのかもしれない。

義経は、このところファンになっている梅玉。高音のところにくると空気の抜けるようなセリフまわしがなんともいえず、大好き。

きのうは6時10分開演し、休憩時間は30分のみで終わったのが10時ちょい前。
たっぷり歌舞伎を観たあとの満足感のまま、すっかり暗くなった外に出る。振り返ると、芝居がはねたあとの歌舞伎座
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[観劇データ]
2013年4月8日 午後6時10分開演
歌舞伎座新開場 杮葺落四月大歌舞伎
1階3列16番