善福寺公園めぐり

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アルネ・ダール 靄(もや)の旋律

アルネ・ダール『靄(もや)の旋律―国家刑事警察特別捜査班』(集英社文庫、訳・ヘレンハルメ美穂)

このところなぜか北欧のミステリーをよく読んでいるが、これもスウェーデンの警察小説。

ストックホルム郊外のフディンゲ警察の警部補ポール・イェルムは、ある日アルバニア系移民の立てこもり事件で、人質を無事助け出そうと犯人に発砲し、けがを負わせてしまう。
警察の内務調査班が動き出して彼は休職に追い込まれる。クビになるのを覚悟したところが、彼は国家刑事警察に新設された特別捜査班Aに配属される。

スウェーデン実業界の大物2人が同じような手口で殺害され、この事件の解決のため国家刑事警察内に新設された部署であり、そこには6人の刑事が急遽抜擢された。

ヤン=オーロフ・フルティーン警部のもとに集まったのは、首を覚悟していたポール・イェルム、大男のグンオル=ニーベル、6人の中で最年長のヴィゴ・ノーランデル、フィンランドからやってきたセルト・セーデシュテット、西海岸からやってきた唯一の女性シェスティン・ホルム、黒髪の移民警官ホルヘ・チャベス
ところが、6人の懸命な捜査にもかかわらず、ふたたび殺人事件が・・・。

作者のアルネ・ダールは1963年生まれ。批評家、編集者としての顔も持つ。
本書は1999年に発表されたシリーズものの第1作で、本国では10作までですでに完結しているという。ということはこれから第2作、第3作と続いて翻訳されていくのだろう。

主人公イェルムは有能な刑事だが、どこか頼りなく、中年男の悲哀を感じさせるところも。
妻とはうまくいってなくて、同じ捜査班の女性シェスティン・ホルムとあやしい関係になったりもする。

移民を受けいれたスウェーデンという国の現実も随所で語られる。
スウェーデンで暮らす外国生まれの国民は、60年ほど前までは人口の1%ほどすぎなかったが、現在は約15%にまで達し、2049年までには人口の過半数イスラム系が占めるとの予測すらあるという。

原題は「MISTERIOSO(ミステリーオーソ)」
セロニアス・モンクの「ミステリオーソ」という曲の名前。
「靄の旋律」という邦題もそこからきているらしい。

たしかにこの曲が小説のスジと重要なかかわりを持っている。ジャズを聴きながら読むとなおよかったかもしれない。

巻末の杉江松恋氏の解説がなかなかよかった。
本書についてだけでなく、北欧のミステリー作家についていろいろ分析していて、勉強になる。