善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

刑事マルティン・ベック 笑う警官

今年の読み納めは北欧ミステリーの『刑事マルティン・ベック 笑う警官』(マイ・シューヴァルとペール・ヴァ―ルーの共著、柳沢由実子訳、角川文庫)。

もともとはスウェーデンで1968年に刊行され、英訳版が1971年にアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞。英訳版をもとに1972年に日本でも翻訳・出版された。それを今年、40年ぶりに初めてスウェーデンの原書から翻訳されて新訳として出版された。

著者のマイ・シューヴァルとペール・ヴァ―ルーは男女のカップルで、奥さんのほうはすでに亡くなっている。

ストックホルム警察本庁犯罪捜査課主任・刑事マルティン・ベックを主人公とするシリーズのうちの1作だが、『87分署』シリーズのエド・マクベインとともに世界の警察小説の2大双璧とされ、後続のミステリー作家に多大な影響を与えたといわれている。
同名の作品を佐々木譲氏が描いているが、本作に傾倒した末のオマージュという。

読んでいて1960年代という時代を感じた。松本清張の一連の小説、それになぜか昔のNHKのテレビドラマ『事件記者』を連想してしまった。
主人公はマルティン・ベックといいながら、刑事部屋の刑事たち1人1人が主役並みに描かれていて、群像小説のよう。
刑事たちのプライベートも織りまぜ、話は淡々と進んでいくが、ムダな会話をしているようで実は少しもムダではなく、話の核心に迫っていく。

あらすじは──。

ベトナム戦争をめぐる反米デモの夜、ストックホルムの市バスで8人が銃殺(ほかに1人が瀕死の状態)される大量殺人事件が発生。被害者の中には、右手に拳銃を握りしめた殺人捜査課の若手刑事がいた。彼はなぜバスに乗っていたのか? 彼のデスクに残された写真は何を意味するのか? 唯一の生き証人はナゾの言葉を残し亡くなる。捜査官による被害者一人一人をめぐる、地道な聞き込み捜査が始まるが──。

冬の夜長にナゾ解きが楽しめる一冊。