善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ミステリーの醍醐味 三秒間の死角

アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『三秒間の死角』(訳ヘレンハルメ美穂、角川文庫、上下巻)を読む。

私が「このミステリーはすごい!」の選者だったら、迷うことなくベストテンの上位に1票を投じた。そんな作品だった。

舞台はスウェーデン。筆者の1人、アンデシュ・ルースルンドは作家でジャーナリスト。一方のベリエ・ヘルストレムは自らも犯罪者として刑務所で服役した経験を持つ刑事施設・厚生施設評論家。
そんな職業があるのか?とも思うが、自らの経験を元に犯罪防止をめざす団体の発起人となり、犯罪に走る少年たちのケアを行っているという。
その彼と、刑務所に関するドキュメンタリー番組を制作中のアンデシュ・ルースルンドとが出会い、意気投合し、本書となった(ほかにも共著の作品があるらしいが)。

はじめはかったるい。
2人の人物が交互に登場する。1人はピート・ホフマン(パウラ)という男。彼は元犯罪者で、スウェーデン警察の潜入捜査員を務めているが、犯罪組織から刑務所内に麻薬密売の拠点を築くよう命じられる。彼を泳がせている政府上層部も、これを好機ととらえ、彼を犯罪者にでっち上げて刑務所に送り込もうとする。
ところが、入所前に彼が関わった麻薬取引の現場で殺人事件が起こってしまい、この事件の捜査に当たるのがもう1人の人物、エーヴェルト・グレーンス警部。

60近くの堅物というか硬骨漢で、職人気質の捜査官。正義感が強く、正義を貫くためには組織のタテマエなんか屁とも思わない、という人物。

スウェーデンでは麻薬、特にアンフェタミンが蔓延していて、刑務所にいる服役囚の大半はアンフェタミンやヘロインなどの薬物依存症に陥っているのだという。つまり刑務所内は麻薬取引の巨大市場というわけで、犯罪組織に目をつけられたというわけだ。ちなみにアンフェタミン覚醒剤の一種。

潜入捜査員の話というと香港映画の『インファナル・アフェア』を連想するが、映画の方の潜入捜査員は歴とした警察官だが、本書のほうは元犯罪者で、警察に利用されているだけの関係。

やがてグレーンス警部の捜査の手がパウラにまで及ぶようになり、これ以上彼を守っていると警察の組織、さらにいえば警察を動かしている政府の立場が危うくなるというので、パウラは見捨てられることになる。

上下巻の上のほうは「あんまりおもしろくないなー」と思いつつ読んでいくが、上から下巻に移るころからガゼン、本に目が吸いつくようになり、一気に読んでいく。ああ、これぞミステリーを読む快感、という感じ。
上と下でこんなにもおもしろさが違う本に初めて出会った。

本書のタイトル『三秒間の死角』の意味が、最後の最後のところで明かされ、なかなか衝撃的である。