善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ヘニング・マンケル ファイアーウォール

ヘニング・マンケル『ファイアーウォール』(創元推理文庫、上・下)読了。
スウェーデンイースタという町の警察署の刑事クルト・ヴァランダーが主役のシリーズもの。

「ファイアーウォール(防火壁)」とはコンピュータ用語だそうで、外からコンピュータ・ネットワークに侵入しようとするものに対して、それを阻止する技術をいうのだとか。

ヴァランダー・シリーズを読むのは前作の『背後の足音』以来2作目(シリーズ自体は『ファイアーウォール』で8作目らしいが2冊しか読んでない)。
主人公は有能な刑事だが、数年前に離婚し、成長した一人娘は遠くにいて、恋人にも去られ、糖尿病の持病を抱える独り暮らしの50男。

19歳と14歳の少女がタクシー運転手を殺害したとして逮捕される。
19歳のほうは警察署から脱走し、変電所で死体となって発見される。
中年の男性のファルクというITコンサルタントがATMの前で死亡しているのが見つかり、やがて、少女たちが起こした事件と中年男の死亡事件が1つにつながり、国際的なITテロ事件へと発展していく。

読んでいて、物語の本筋より、ヴァランダーをめぐる人間模様のほうに興味が注がれる。
中間管理職の悲哀というか、上司である警察署長からも、部下の刑事からも疎まれ、犯罪捜査グループのリーダーとして自分は失格ではないか、と自信を失いかける主人公。

しかも事件はコンピュータ犯罪を扱うもので、足で調べ、人に会い、そのときのインスピレーションこそが捜査に欠かせない、と信じるヴァランダーは、自分は時代遅れの刑事なのかと煩悶するようになる。

私生活では独り暮らしに耐えかねて、パートナーを探そうと恋人紹介所みたいなところに仲介を依頼したりする。

読んでいて何となく身につまされて、共感できる。
最後に事件は何とか解決して、主人公は自信を取り戻すのだが、題名の「ファイアーウォール」とは、コンピュータの世界のことだけではなく、主人公自身の問題でもあることにも気づかされる。

これも本筋とは関係ないが、ヘーッと思ったのは、登場する警官はヴァランダーのような捜査チームのリーダーであれ、ヒラの刑事であれ、みんな署内にちゃんと個室を持っていること。
日本だったら部長クラスになれば別かもしれないがヒラはもちろん、課長クラスだって大部屋にみんな一緒というところが多いだろう。

ところが、スウェーデンは警察に限らず一般企業でも社員1人1人に個室が与えられるのが普通なのだという。

ネットで調べたらストックホルム在住の日本人が次のように書いているので紹介しておこう。

スウェーデンでは一人当たりのオフィスの占有面積が日本と比べてかなり広いです。マネージャークラスのみでなく一般社員一人一人にも個室が与えられるのが普通で、長く机に向かって仕事をしていても体の負担にならないように椅子や机のデザインやクオリティ、パソコンやマウスの配置もかなり考慮されています。 現在では、スウェーデンでもベンチャー企業外資系企業、できたばかりの若い会社などはスウェーデン国外の影響を受けてワンフロアに皆で机を並べて仕事をする所も多くなっているようですが、それでも一人当たりのオフィスでの占有面積は一般的に日本のそれよりは少なくとも3倍は広いと思います。
(STOCKHOLM DIARY「スウェーデンで働く」より)

人口に比べ国土が広いからか、個人をどうみるかの国民性の違いからか。