善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

マイクル・コナリー 真鍮の評決

マイクル・コナリーの『真鍮の評決』(講談社文庫)を読む。いわゆる「リーガル(法廷)もの」

2005年に出版された『リンカーン弁護士』が意外におもしろくて、その後、『エコー・パーク』『死角 オーバールック』などを読んでいるが、本書は『リンカーン弁護士』の続編。

弁護士としてのウデはいいはずだがなぜか生活は苦しく、私生活も不遇(2度の離婚歴あり)、事務所も持てず、元妻を電話番として高級車リンカーンの後部座席をオフィスにしている中年弁護士マイクル(ミッキー)・ハラーの物語。

ハラーの仲間の弁護士が何者かに殺され、彼の仕事を引き継ぐことから話は始まる。その中には、妻とその愛人の射殺容疑で逮捕されたハリウッド映画制作会社オーナー、ウォルター・エリオットの事件が含まれていた。
エリオットの手からは銃を発射したことを示す「発射残渣」の証拠が残されていて、証拠は十分。しかし、なぜかエリオットは裁判に絶対の自信を見せており、裁判の遅滞を避けようとしていた。

やがてハラーは、裁判にかかわって巨額の賄賂が動いていた事実をさぐりあてる(これが日本では考えられないようなトンデモナイ話。あるいは、日本もやがてそうなっていくのかとゾッとする話でもある)。
また、エリオットの発射残渣の謎を解く鍵にも気づくようになるが、やがてハラーに迫る魔の手──。

コナリーの別のシリーズの主人公、ハリー・ボッシュも登場して、話は複雑に入り組んでいくが、なかなかおもしろく読めた。

特に、裁判の決め手となる“魔法の銃弾”を発見し、それを法廷で明らかにしていくくだりは一種爽快でもあった。
ナゾ解きというのもミステリーの大事な要素。

アメリカの陪審裁判の一端がよく描かれていた。
さすがは陪審裁判の本家アメリカ、有罪無罪を争う裁判の攻防は陪審員を選ぶときからはじまっていて、いやむしろ有罪か無罪かはこの時点で決してしまうことも少なくないようだ。
いかに自分に有利な陪審員を選ぶか、検察側も弁護側も躍起になっていて、12人の陪審員を選ぶ際、殺人容疑の陪審裁判では検察側・弁護側双方にそれぞれ20回の専断的忌避権が与えられているという。
「勝てる陪審員」をアドバイスする陪審員コンサルタントという職業がアメリカにはあり、小説でも活躍している。

本書を手に取ったとき「真鍮の評決」というタイトルが気になって、「ブリキより多少はましな評決という意味かな」と思ったりしたが(原題も『BRASS VERDICT』)、読み終えてナルホドと思った。
いかにも西部劇の国らしい。