善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

卵をめぐる祖父の戦争

ディヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』(ハヤカワ・ポケミス)を読む。

ときは第二次世界大戦末期の1942年、ナチスドイツの包囲下にあったレニングラード(今のサンクトペテルブルク)での物語。むごたらしい戦争小説でもあり、歴史小説でもあり、波瀾万丈の冒険小説でもあり、若者2人の友情物語であり、あわい恋を描いた青春小説でもある。つまり1冊でいろんな要素が楽しめた小説だった。

あらすじは──。

原題は『CITY OF THIEVES』。「泥棒都市」とでも訳すのか。ナチスドイツ包囲下、飢餓にあえぐレニングラードで、死んだドイツ兵からナイフを盗んだ17歳の少年レフ(リョーヴァ)と、ソ連軍の脱走兵ニコライ(コーリャ)は秘密警察に捕まって、そこの大佐から、娘の結婚式のウエディングケーキをつくるため1ダースの卵を調達するよう命令を受ける。
この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?――逆境の中でたくましく生きる若者たちの友情と冒険の果ては──。

主人公の名前はレフ(リーヴァ)・アブラモヴィッチ・ベニオフ。作者の名はディヴィッド・ベニオフ。最初、てっきり自分の祖父が体験を語った実話かと思ったら、これがまるでフィクションであることは、「訳者あとがき」からわかる。
著者ベニオフの実際の祖父母は父方母方ともにアメリカ生まれで、レニングラード包囲戦とはまるで無縁。

もちろん、まったくの作り話ではなく、あのときのレニングラードでの悲惨な様子は史実にもとづいているのはたしかだろう。何しろ900日にも及ぶ包囲作戦によって、飢餓や砲爆撃などによってソ連政府の発表によれば67万人、一説によれば100万人以上の市民が死亡したという。これは日本本土における民間人の戦災死者数の合計(東京大空襲沖縄戦、広島・長崎を含む全て)を上回る数なんだとか。

小説の中でも酷い話が次々に出てくる。
しかし、それでも小説の中身は明るい。何しろ下ネタが満載。そして、最後も、ハッピーエンドで終わるのが救いだ。

アメリカの現代作家が、よくぞあのレニングラード包囲戦を、まっすぐな目で描いたものだと感嘆した。