善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

2月文楽公演 菅原伝授手習鑑

2月文楽公演(国立劇場)は1部、2部、3部まであり、どれに行くかと迷うが(何しろ1公演5700円也)、また、あれこれ迷うところがまた、文楽鑑賞の楽しみではある。

結局、きのう行ったのは第2部「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」道行詞甘替/吉田社頭車曳の段/茶筅酒の段/喧嘩の段/桜丸切腹の段。
桜丸切腹の段の切(きり)が竹本住大夫、桜丸に吉田簑助、父親の白太夫桐竹勘十郎と、申し分ない。

この作品は1746年(延享3)8月に大坂竹本座で初演。竹田出雲、三好松洛、並木千柳らの合作。同じ年9月には早くも京都中村喜世三郎座で歌舞伎化され、「義経千本桜」、「仮名手本忠臣蔵」とともに義太夫狂言の3大名作といわれる。

菅原道真(菅丞相)と藤原時平との政争を題材にし、松王丸・梅王丸・桜丸の三つ子の活躍を配した。3人の作者が、二段目「道明寺」で苅屋姫と菅丞相との別れ、三段目で桜丸と白太夫との別れ、四段目「寺子屋」で小太郎と松王との別れをそれぞれに書き較べたものといわれている。

歌舞伎や文楽には「世話物」と「時代物」とがあるが、こちらは「時代物」の最高傑作の1つ。
国をゆるがすような闘争や乱れた秩序を回復する物語であるとともに、大きな悲劇とか死、逆縁の死などの「別れ」が生ずるのが「時代物」の特徴というが、この「悲劇」や「別れ」について、能との違いをこう指摘する人もいる。

すなわち、能の場合は前世の因縁、私憤といった個人に由来するものがほとんどだが、文楽や歌舞伎では国や社会の問題などのに由来することが多い。
なるほど、能が武家の文化であるのに対して、文楽や歌舞伎は庶民がつくり出した文化。抑圧された階級の批判精神が、芝居づくりに反映されているのだろう。

さて、きのうの公演。義太夫は若手が多く、その成長ぶりがうれしかった。
その中に竹本小住大夫という聞き慣れない名前。去年8月に芸妓員になったばかりで、今年23歳で師匠は住大夫。
福岡出身で、福岡大学人文学部日本語日本文学科在学中の去年の正月から「文楽協会」の研究生になり、同年3月大学卒業とともに本格修行、8月より技芸員となり、昨秋大阪でデビュー。今公演が東京デビューのようだ。先々が楽しみ。

若手中心だったこともあってか、桜丸切腹の段の住大夫の語りのすばらしさがよけいに際立つ。

舞台では「車曳の段」の見得の競演が見事。この場面、歌舞伎でも見たが、負けない華やかさがあった。
簑助の桜丸、勘十郎の白太夫もさすがの演技。桜丸が切腹するとき、わずかな動きのなかに命のほとばしりを感じる。勘十郎は、人形を遣う自分自身も70歳の老人になっていた。間に挟まれて、清十郎の桜丸女房八重がまたよかった。

おかげで、帰りの電車は夢心地。