善福寺公園めぐり

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ちひろ美術館&ショーン・タンの世界展

初めて「ちひろ美術館」に行く。
画家で絵本作家のいわさきちひろ。ずっと前からファンで、ちひろ美術館は憧れの場所だったが、行くのは初めて。
西武新宿線上井草駅から徒歩7分ほどのところにある。駅から美術館まで、けっこうクネクネ曲がっていくが、案内が充実していて迷うことはない。
 
住宅街の中にあるちひろ美術館 
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511日から6月28日まで開催の「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」をみる。
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ショーン・タン(1974~)はオーストラリアの作家で、絵本・映像作家として活躍している。日本初の大規模な個展となるのが本展で、代表作の原画などのほか立体作品、資料、映像も含めて紹介されている。
 
彼の代表作が『アライバル』という絵本。全6章、128ページに及ぶが、文字はなく、鉛筆で緻密に描かれた絵だけで、家族を守るために新天地に渡った男の物語を軸にした移民の姿が描かれているが、この作品の制作には約6年を費やしたという。
おびただしい数のイメージスケッチや絵コンテを描き、自ら主人公の男を演じた場面を写真に撮って、それを鉛筆で描き起こすということまでしたらしい。スケッチやコンテの細かいこと!
 
彼が描く登場人物というか登場動物というか、登場生物?は、どれも不思議で奇想天外なものばかり。そういえば展覧会のタイトルも「どこでもないどこかへ」となっているが、彼のイマジネーションから生まれてくる世界なのだろう。
 
展覧会では、9年の歳月をかけて映画化した『ロスト・シング』という短編映画も上映されていたが、2011年にアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した作品。
ある夏の日、若い男が浜辺で出会った迷子の居場所を探す物語。その迷子とは軟体動物とカニとだるまストーブが合体したような姿をしていて、体から出た触手で自分の気持ちを表現しているようで、次第に若い男と心を通わせていくが、最後にはピリッと風刺を効かせている。
 
展示されていた絵本の原画の中でとても美しいなと思ったのは「ムーンフィッシュ」という作品。あまりに美しくて、帰りにミュージアム・ショップに寄ると、絵はがきになっていたので迷わず購入。
写真はその絵はがきより。
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ムーンフィッシュを少年が抱えている。
近く日本でも出版される『内なる町から来た話』(邦訳仮題)という本に載っている絵だそうで、この本には都市を舞台に25の動物の寓話が収められているという。

帰宅後もこのムーンフィッシュのことが頭から離れず、ネットで検索すると、ショーン・タンの作品の話はなくて、意外なことがわかった。

ムーンフィッシュは想像の産物ではなく、実在する魚だった。
その名もやっぱりムーンフィッシュといって、ハワイあたりではよく捕れる魚で、スーパーなんかでも売っているらしい。
日本でも、沖縄では「アカマンボウ」と呼ばれているそうで、赤身の部分がマグロに似ていて、このところ資源が枯渇気味のマグロの代用品として刺身として出回っている、とのうわさまであるらしい。
 
それはともかく、タンが創り出す作品はどれも奇想天外ですばらしいのだが、やはり一番すばらしかったのは自然が創り出した実在の生き物の姿だった。もちろん、いくら本物の自然が美しいといっても、それだけでは「美」にはならない。かれは自然の美しさをモチーフにして、さらに美しい作品に昇華させた。それがあのが絵だった。
 
タンのインタビューも上映されていたが、その中で彼は、インスピレーションはただ想像するだけでは生まれない、だからぼくはいつも手を動かして何かを描いていて、インスピレーションはその中から生まれる、というようなことをいっていた。
ただ空想するだけではなく、目の前の自然をよく観察し、それを造形化する中でこそ、新たな創造も生まれるのだろう。
 
ちひろ美術館にはちひろのアトリエを部屋ごと復元した空間もあった。
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ここは、ちひろが画家として生きたそのほとんどの時期(19521974年)をすごした場所。このアトリエは1963年の増築時に2階につくられ、以後11年間使用されたものという。ちひろは南に向かって大きく開いた窓の外に広がる木立や、ベランダに並べた季節の鉢植えなどを眺めながら絵筆をとり、数々の作品を生み出したという。
ご主人の善明さんと一人息子の猛さんの3人の仲むつまじい写真も飾られてあった。
 
美術館を出たのが昼ごろなので、近くで昼メシをと、そこから少し(といっても一駅分)歩いた井荻駅近くのそば屋「みわ」へ。
ここの酒もツマミもそばもうまかった!
それについては次回に続く!