千葉県市原市にある「市原湖畔美術館」に、「ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ」展を観にいく。
ミロコマチコは画家で絵本作家。豊かな想像力と色彩感覚、画面から飛び出るのではないかと思うほどののびのびとした造形が魅力の絵が特徴。大阪・枚方市出身で1981年生まれというから今年41歳。
この人の経歴がちょっと変わっている。
大学では児童文学を学び、18歳のころは人形劇団に所属して台本を担当していたという。大学を卒業すると絵に目覚めたのか、アートスクールに入学し、2年間、本格的に絵本製作を学んだという。
彼女は子どものころから絵に対する興味はそれほどなかったのだという。
「お話の人なんです」とご本人は対談かなんかで語っていて、人形劇団に入ったのもそれが理由だっただろうが、「お話」と一緒に絵も描いていくうちに、絵のおもしろさに気づいたという。
ただし、千葉県のほぼ真ん中ぐらいのところにある市原湖畔美術館へ行くのがひと苦労。
東京駅前から出る高速バスに乗って、東京湾アクアライン経由で、渋滞もあったので約1時間半で市原鶴舞バスターミナル下車。そこからタクシーで約5分。
会場でまず出迎えてくれたのは、山車をひくクマ。実はこれ、「あっちの耳、こっちの目(クマのおはなし)」(2016年)と題しての、いわば立体絵本なのだとか。
山車に描かれた絵が物語になっていて、ぐるりとまわりながらお話を楽しむ。
会場の中で、もうひとつあった立体絵本「あっちの耳、こっちの目(カモシカのおはなし)」(2016年)。
人間と野生動物が、それぞれの視点で2つの「お話」を語ってくれる。
「人間と野生動物が同じ場面を共有しながらも、両者の意識が交錯することはなく、自然の中における人間の在りかたが問われ」る作品という。
人間の視点からのお話。
カモシカの視点からのお話。
ほかにも、近作・新作を中心にした絵画や絵本原画から、さまざまな作品が展示されていた。
田島征三の影響を受けたのか、絵はどこか雰囲気が似た感じがする。
これなんかはボナールの猫ふう。
屋上に展示されていたのは、NYのアーティスト、ヴィト・アコンチ率いるアコンチスタジオの作品。グニャグニャのチューブで、風が吹くとユラユラするらしい。
市原湖畔美術館は高滝湖という湖のほとりにある。
美術館屋上から湖をのぞむ。
高滝湖は1990年に完成した高滝ダムによって作られた人造湖で、県下最大の貯水面積を誇っているのだとか。95年にオープンした観光・文化施設「市原市水と彫刻の丘」をリノベーションし、市原市の市制施行50周年を記念して2013年に誕生したのが同美術館。
リノベーションにあたっては、コンクリートの構造体だけ残して仕上材はすべてひっぺがし、そこにアートウォールと名付けたスチール折板の新しい壁を縫うように挿入して、展示室やラウンジ、ホールなどをつくり出したという。
リノベでも新築同様の美術館ができるものなんだね。
芝生広場にあった「飛来」と題する作品。
天空の彼方から億光年の光のカタマリが飛んできたというイメージだとか。
作者の篠原勝之はかつて「ゲージツ家のクマさん」としてテレビの娯楽番組に出演していた。
昼食は、美術館の敷地内にある「房総イタリアン PIZZERIA BOSSO(ピッツェリア・ボッソ)市原店」。
まずは生ビール。
ピザを注文した人限定でニンジン、洋きゅうり、タマネギ、キャベツなどを酢漬けにしたピクルスが瓶ごとドーン。食べ放題らしい。
ビールのつまみはイワシのコンフィ。
旬の房総野菜の窯焼きピサ(トウモロコシとズッキーニ)
ひと休みして周辺を散策。
美術館に隣接してあるのが高さ27mという「藤原式揚水機」の実物大模型。
この揚水機は、とても歴史的な価値のある設備らしい。
原理は、川の流れによって回る水車を動力にして、ベルトコンベアを回転させる。ベルトコンベアには一定間隔で水箱が取り付けてあり、水車で動くベルトコンベアにより水箱に入った水を汲み上げるもので、これにより低地から高地へと水を送ることができる。
揚程(水を揚げる高さ)は27・2m、用水量は毎分330リットルという。
電気やタービンなどの近代的な動力を使うことなく、川の流れという自然を利用した水車の中でも最高傑作と呼ばれるのがこの藤原式揚水機の水車で、当時の揚水車の中でも最大規模の揚程を誇っていたという。
この揚水機を発明したのは泉州(現在の大阪府泉佐野市)の水車大工、藤原治郎吉という人。家は代々農業を営み、父親は農事改良や揚水機の発明などに力を注ぎ、息子の治郎吉も17歳にして籾摺機を考案し、その後、揚水機などを次々に発明していった。
彼は明治11年に千葉県内にある夷隅川下流で精米麦・製糖兼用の灌漑用揚水車を設置し、翌12年に現在の市原市の養老川に設置したのが、今日レプリカで残っている揚水機。
この揚水機は、房総地方を襲った明治26年の大干ばつで活躍し、一躍脚光を浴びた。養老川は河床が低く、沿岸の河岸段丘との比高は20m以上に及ぶところもあり、ポンプが普及する前は段丘の上にある水田に用水を導くのは容易なことではなかったという。新式の揚水機は、大干ばつで窮地に追い詰めれていた農家を救った。
藤原式揚水機は千葉県を中心に設置されていたが、その後、群馬県、熊本県などにも普及していったという。
美術館からの帰りは、せっかくきたからと小湊鉄道に乗る“ローカル線の旅”。
湖を渡って最寄り駅の高滝駅に向かう。
湖上にもアート作品。
ダム建設によって失われた生命が復活するという「生命の循環」をキーワードとする水上彫刻で、題は「生命の星(やませみ)、かげろう、湖の祭り」。作者は重村三雄。
途中、出会った生きもの。
ショウリョウバッタだろうか。
体は緑色なんだけど、触角や脚は茶色。
ツバメの尾のような細長い突起のあるツバメシジミが、ちょっとだけ翅を広げていた。
白っぽいからオスのようだ。
やけにヒゲ(触角)の長~いバッタ。
高滝湖から20分ほど歩いて駅に到着。
五井まで行って、そこでJR線に乗り換え、東京に向かうのだが、まずやってきたのは五井からきた養老渓谷行きの電車。
車掌さんが1人で切符のチェックからドアの開閉までやっていて、大変そうだ。
しばらくして、ゆっくりと五井行きの電車がやってきた。
1両しかなかったが、夏休みだからか、けっこうにぎわっていた。