善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

実盛物語の仁左衛門

歌舞伎座「四月大歌舞伎」夜の部を観る。
演目は「源平布引滝 実盛物語」「猿翁十種の内 黒塚」「二人夕霧」。
出演は仁左衛門歌六錦之助猿之助鴈治郎孝太郎、魁春ほか。
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圧巻は時代物の名作「実盛物語」の仁左衛門
特に扇を用いて物語るくだり。「語る」ということが、いかに見る人間に想像の豊かさを与えてくれるか実感させる。そんな至福の時をすごせるのも仁左衛門の芸の極みゆえ。あの仁左衛門の高低差のある独特の台詞回しがわれわれを空想の世界にいざなってくれる。
 
「実盛物語」は「平家物語」に出てくる話を膨らませて歌舞伎にしたもので(というより元々は文楽)、いかにも歌舞伎らしい終わり方をしていた。
 
幕切れ近くで「母(小万)の敵」と迫る7歳の太郎吉(のちの手塚太郎)を、実盛は軽くいなして、後日、討たれることを誓う。
そばにいた九郎助が「孫めがおおきゅうなるときはお前さまは顔に皺ができ、髪は白髪でわからなくなる」というと、「そのときは髪を黒に染め、若やいで勝負をとげん」と、三味線に合わせて「見参、見参、見参じゃぞよ」と義太夫口調でいうセリフなど、見ている方も思わず笑顔になってしまう。
 
同じ題材を扱った謡曲に「実盛」があるが、こちらの実盛は手塚太郎に討たれたことを悔いて往生できずに幽霊になる。
その点、歌舞伎は悲壮感はなく、むしろ実盛の人間味がジワジワと伝わってきて、さわやかな感動の中で幕となる。
 
「黒塚」は奥州安達原の鬼女伝説にちなんだ物語で、猿之助の家の芸である「猿翁十種」のひとつ。
先代の猿之助がロシアンバレエの技法をとり入れたという「芒の原の踊り」では、美しい月明かりに照らされた舞い姿に引き込まれた。