善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

セント・オブ・ウーマン~夢の香り

いつもはワインを飲みながら昔の洋画を観るのだが、日本酒を飲みながら観たのがNHKBSで放送していたアメリカ映画「セント・オブ・ウーマン~夢の香り」。
1992年の作品。
原題は「Scent of a Woman」。女の香りという意味か。
監督マーティン・ブレスト、出演アル・パチーノクリス・オドネルジェームズ・レブホーン、ガブリエル・アンウォー、フィリップ・シーモア・ホフマンほか。

アメリカ・ボストンの全寮制名門高校に奨学金で入学した苦学生のチャーリー(クリス・オドネル)は、感謝祭の週末、故郷オレゴンへ帰るための旅費を稼ごうと、盲目の退役軍人フランク(アル・パチーノ)の世話をするアルバイトをすることになる。
生きる希望をなくし、気難しく孤独なフランクは、チャーリーをニューヨークに連れ出し、かねてから考えていたことを実行しようとするが…。

金持ちで酒好き(飲むのはもっぱらジャック・ダニエル)女好きだが孤独なオジサンと、貧しくとも真っ直ぐな心の17歳の少年というより青年をめぐるヒューマンドラマ。

真っ正直なチャーリーに対して金持ちの甘ったれおぼっちゃん役で登場する同級生、どこかでみたことがあると思ったら「ミッションインポッシブル3」で悪役を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンだった。このときまだ24、5歳の駆け出し。だが46歳の若さで急死している。

アル・パチーノが、バンドが生演奏中のレストランで食事しているとき、いい香りにひかれて、そのいい香りを放つ美しい女性(ガブリエル・アンウォー)を誘ってタンゴを踊るシーンがなぜか印象に残る。
彼女の出演はたったこれだけだったのだが、このシーンがなぜ心に残るかというと、「一緒にタンゴを踊りませんか」と誘われて、彼女は「以前、タンゴを習ったことはあるけれど恋人に反対されてやめちゃった。うまく踊れないし、間違えちゃうのが怖いわ」と尻込みする。するとアル・パチーノはこんなふうに言うのだ。
「間違ったっていいさ。タンゴは人生とは違うんだ。たとえ間違ったって、足がもつれたって、踊り続ければいいんだよ」
それで2人は踊り出すのだが、短いシーンのこの中に、この映画の主題が潜んでいる気がした。

全編を流れる音楽もステキだったが、途中、随所で聞いたことのあるメロディーが流れた。
ようやく物語の終りごろになって思い出したのは、チャプリンの映画「街の灯」のヒロインのテーマ、「花売り娘」だった。
そういえば「街の灯」のヒロインは盲目の女性だった。
そして、主人公の青年は「セント・オブ・ウーマン」のチャーリーと同じチャーリー(チャールズ・チャプリン)。

「街の灯」は、浮浪者チャーリーが街角で花を売る盲目の貧しい娘に恋をして、彼女の目を治すため一大奮闘する物語。
チャーリーと娘との最初の出会いのときと、物語の最後、目が見えるようになった娘が貧しい身なりのチャーリーと再会するシーンでこの曲が流れるのだが、心温まり、同時に切ない気持ちにもなる幕切れにふさわしい曲で、チャプリンのはにかむ笑顔のアップでジ・エンドとなる。
再会を果たした2人はその後、どうなっただろう?
「街の灯」をみたあと、そう思ったものだ。
ひょっとして「セント・オブ・ウーマン」の監督も同じことを思って、自分なりの「街の灯」を描きたかったのかもしれない。