善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

A・J・フィン ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ

A・J・フィン「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ」( 上・下巻、池田真紀子訳、早川書房

精神分析医のアナ・フォックスは、夫と娘と離れてニューヨークの高級住宅地の屋敷に10カ月もひとりこもって暮らしていた。広場恐怖症のせいで、そこから一歩たりとも出られない。彼女の慰めは古い映画とアルコール、そして隣近所を覗き見ること。ある時、アナは新しく越してきた隣家で女が刺される現場を目撃してしまう……。

最初、高級住宅地に住むリッチでヒマな女性のカッタルイ話かと思ったら、途中からガゼンおもしろくなった。
主人公のアナは1940年代のモノクロ映画のファンで、作品中にも映画の話が随所に出てくるが、そのほぼすべてがフィルム・ノワールかヒチコック作品ないしはヒチコックの影響下でつくられたサスペンス映画。中でもジェームズ・スチュアートの名前がよく出てきて、彼女はどうやらジェームズ・スチュアートがお気に入りらしい(私と一緒)。
というか、この作品自体がヒチコック監督でジェームズ・スチュアート主演の「裏窓」のオマージュみたいな小説なんだが。

夫や娘と別れてひとり暮らしで、トラウマによる広場恐怖症であるため10カ月もの間ほとんど一歩たりとも外に出られず、しかも被害妄想的なところがあり、なぐさめは古い映画と1日に何本も飲む赤ワインのメルロ(たまにピノノワール)。それにオプテカのズームレンズとニコンD5500で近隣を覗き見し、主治医の諫めにもかかわらずワインと一緒に薬を飲むような彼女(実は精神分析医なんだが)が、殺人を目撃しても誰からも信じてもらえない。話は主人公のモノローグで進んでいくが、読み手もだんだんわけがわからなくなっていく。
そして、最後のどんでん返し──。

実は作者のA・J・フィンも主人公同様、広場恐怖症うつ病に長い間苦しめられた経験があるという。
それでリアルな描き方ができたのだろう。

ただし、本書を読んでいて、飼いネコがつかまえたネズミを捨てにいくシーンがあり、地下階に住む間借り人から「古新聞はあるかな?」と聞かれて、「今どき、新聞を取ってる家なんてあるの?」と答える場面があった。
ニューヨークではもはや紙の新聞は“絶滅種”なんだろうか?
毎朝届く新聞が楽しみな身としては、そっちのほうがゾーッとした。