善福寺公園めぐり

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ブリューゲル「バベルの塔」展

上野の東京都美術館で開催中の「バベルの塔」展を見る。
感想を一口でいえば、スゴイ!衝撃的!だった。

展覧会の正式名称は「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲルバベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―」(7月2日まで)。

16世紀のフランドル絵画の巨匠、ピーテル・ブリューゲル1世の代表作の1つ、「バベルの塔」が本展の目玉だが、なぜこの作品が生まれたのか、多角的に「バベルの塔」をヒモ解く工夫がされていて、ブリューゲルに大きな影響を与えたヒエロニムス・ボスの貴重な油彩2点も初来日。これもすばらしかった。

ブリューゲルは「バベルの塔」を2枚描いていて、1563年に第1作を、1568年に第2作を完成させている。
第1作のほうはウィーン美術史美術館が所蔵していて、何年か前ウィーンに行ったとき見ているはずだが、さほどの衝撃は受けなかった。

しかし、今回は違う。
まず、彼に影響を与えたヒエロニムス・ボスの作品がスゴイ。
奇想天外といおうか、摩訶不思議な絵を描いている。
500年も前にこういう奇想の画家が存在していたというのが驚きであり、感動でもあった。
想像力とは無限であり、何とすばらしいものだろうとつくづく思った。

ボスの奇想の影響を受けたのがブリューゲルだった。
いくつもの版画作品を残しているが、奇怪な人物や怪獣みたいなのも登場していてボスの影響の大きさがうかがわれる。
もうひとつ、ブリューゲルが卓越しているのは鋭い観察眼と写実性。
私なんかはブリューゲルというと「雪中の狩人」とか「農民の婚宴」など農村で働く人々を描いた作品のほうが印象が強くて、彼は風景画なども描いているが、そこで培った観察眼が「バベルの塔」にも生かされているようだ。

本展の目玉にしては、「バベルの塔」は意外と小さい。
オークの板に油彩で描かれているが、59・9㎝×74・6㎝という大きさ。

しかし、そこには壮大なスケール感を持った巨大な塔とともに、ミクロの描写が繊細に施されている。まさにマクロとミクロが見事に融合しているのだが、米粒ほど(1人の人物は3㎜以下だとか)の大きさでバベルの塔の建設のために働く人々が登場していて、その数およそ1400人という。

何より衝撃を受けたのが、ブリューゲルの創作意図だった。
ふつう、バベルの塔というと、人間の高慢な振る舞いを諫める言葉として使われる。
文明の発達を過信して人間があまりにも高慢になったことに天罰が下る・・・といった感じだ。
しかし、ブリューゲルはそうした寓意をこの絵に込めようとはしていない。
彼は、巨大な塔の建設に挑む人々の大いなる挑戦として、この絵を描いているのだ。

絵に描かれている人々の3㎜にも満たない身長を170㎝と仮定して類推すると、ブリューゲルが描いたバベルの塔は高さが約510mにもなる計算で、東京タワーよりはるかに高いという。
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