東京・銀座の銀座メゾンエルメス10階にあるミニシアター・ステュディオでアメリカ映画「グロリア」を観る。
1980年の作品。
原題「GLORIA」。
監督・脚本ジョン・カサヴェテス、出演ジーナ・ローランズ、バック・ヘンリー、ジュリー・カルメン、ジョン・アダムズほか。
“インディペンデント映画の祖”とも称されるカサヴェテス監督が女性主人公を新鮮なタッチで描いたハードボイルド・ドラマ。
ニューヨークのサウス・ブロンクス。マフィアの会計係を務めるプエルトリコ人の男が資金を横領したうえFBIに情報を流していことが発覚し、一家ごと殺されようとしていた。そんな中、偶然コーヒーの粉を借りに訪ねてきた隣人の中年女性グロリア・スウェンソン(ジーナ・ローランズ)に、6歳の息子・フィル(ジョン・アダムズ)を預かるように頼み込む。子ども嫌いのグロリアは断るが、強引に押しつけられてしまう。
父親はフィルにFBIにはまだ伝えてなかった秘密の会計情報が書き込まれた手帳を「大事な聖書だ」といい聞かせて持たせていたが、組織はその手帳の存在に気づいていた。仕方なくフィルを家に入れたグロリアだったが、その直後に銃声や争う音が鳴り響き、一家は惨殺されてしまう。
グロリアは過去に組織のボスの情婦でもあった。しかし、一人ぼっちになったフィルを守るため、命懸けで組織と対峙することになる・・・。
カサヴェテス監督が妻のジーナ・ローランズを主演に迎えて描くハードボイルドの傑作。
見ていてすぐに思った。「この映画は『レオン』だ!」と。
孤独な殺し屋が惨殺された一家のただ一人生き残った子どもを守り、復讐する物語が、リュック・ベッソン監督でジャン・レノとナタリー・ポートマン主演の「レオン」。両方ともとてもよく似た筋立てで、タイトルも子どもを守る主人公の名前。だが、「グロリア」は1980年の作品なのに対して、「レオン」がつくられたのは1994年。とすると影響を受けたのはベッソン監督のほうかも知れないが、ベッソン自身は「レオン」ついて、彼が初期のころにつくったフランス映画「ニキータ」で描いたテーマを英語で描いた別バージョンといってるそうだが。
それはともかく、「グロリア」で目を見張るのが、少年を偶然かくまうことになった隣人の中年女性、ジーナ・ローランズの名演技。
子ども嫌いで、やさぐれていて、酒とたばこで憂さを晴らすようなくたびれたオバサンだったのが(この映画のときローランズは49歳)、懸命に生きようとする6歳の男の子と出会い逃避行を続けるうち、彼女自身もタフに生きる力を取り戻していく。魅力的な女性になっていく。それだけでなく、子どもを愛する気持ち、母性さえも生まれてきて、映画の最後では少年と彼女はついに〈親子〉になるのだ。
彼女は、6歳の男の子を連れてただひたすらマンハッタンを逃げ回るのではない。次々とやってくるマフィアの男たちを隠し持った拳銃で次々と撃ち殺していく。その拳銃裁きがカッコよくて、美しくて、痺れる。
本作の演技でローランズはアカデミー賞およびゴールデングローブ賞で主演女優賞にノミネートされ、第37回ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞を受賞している。
何がそんなにカッコよくて美しいのか。
演技もクールでうまいのだが、見ていて思ったのは、スタイルのよさと相まってドレスの着こなしが見事で、ヒールを履いてブロンドの髪を揺らしながら拳銃をバンバン撃つものだから、とてもエレガントでなおかつハードボイルド(冷めた感じという意味で)なのだ。
実は、彼女が着ていた衣装は、フランスのファッションブランド、エマニュエル・ウンガロのコレクションから選んだという。
主人公のグロリア・スウェンソンという名前は、伝説のハリウッドスター、グロリア・スワンソンとの一文字違い。あえてそんな名前にしたのも、グロリア・スワンソンが活躍した1930年代のブロンクスの雰囲気を再現したかったのだろうか。