善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

中之条ビエンナーレ 楽しい発見 その1

群馬県中之条町を舞台に2年に1度開催される国際現代芸術祭「中之条ビエンナーレ」(町と実行委員会などが主催)(10月9日まで)に1泊2日で行ってきた。

アートっていいなーと思った楽しい発見の2日間だった。

9回目を迎える今回のテーマは「コスモグラフィア―見えない土地を辿(たど)る―」。

「コスモグラフィア」とは16世紀にドイツの地理学者が出版した地誌のタイトルだそうで、全世界つまり、地球や宇宙や、死後の世界までもを包括して描かれた宇宙像のことだという。

「中之条市街地」「伊参(いさま)」「四万温泉」「沢渡暮坂」「六合(くに)」の5つのエリアの約40カ所に分かれて100組を超すアーティストの作品が展示されていた。

中之条というのはどこにあるかというと、関東北部にある群馬県の、そのまた北西部に位置し、新潟・長野に接する県境の町。

長野県上田市から栃木県日光市までの全長約320㎞に及ぶ広域観光ルートである「日本ロマンチック街道」(この名はドイツのロマンチック街道に由来)のちょうど真ん中あたりに位置し、交通の便はよく、風光明媚な山々に囲まれて町内には四万、沢渡などの温泉が9カ所もあり、“癒し”の地域でもある。

 

まずはオフィシャルショップがある町役場近くの中之条ふるさと交流センター「つむじ」でパスポート(要するに入場券、1500円也)を購入し、アートめぐりのスタート。

最初にめぐったのは「中之条市街地エリア」。

町役場近くにあるかつての酒蔵、旧廣盛酒造でおもしろかったのが鹿野裕介の「醸しの間」。

天井からつるされた長方形のボードの上には大小のカラフルなボールが載っていて、ボードを動かすと反対方向にボールが転がっていく。

その様子が、酒蔵にちなんで「醸している」ということなのだろうか。

見ていて飽きないのだが、不思議に思ったのは、ボードを揺らすことでボードはたしかに動いているのだが、ではボールは?

そこには慣性の法則が働いているはずだ。

慣性の法則とは、物体が静止しているときは常にその状態を保ち続け、運動しているときはそのまま運動をし続けることだから、ボールがとまっていて下のボードだけが動けば、ボードたしかに動くが、丸いボールはどうなるのか?

揺れるボードの上のボールの気持ちは?

「醸す」とはまさしくそういうことなのかもしれない。

 

今は使われていない日本酒の貯蔵タンクの間に作品が展示されていた。

 

お昼は中之条市街地から北西に行った沢渡(さわたり)温泉にあるそば屋「よしのや」で。

野菜天ぷらそばと、ここの名物という玉の肌豆腐。

そばは石臼で挽いた自家製粉の手打ちそば。沢渡温泉はお湯の肌触りが柔らかくなめらかなので「一浴玉の肌」といわれ、そのキャッチフレーズにあやかって玉の肌豆腐。とても滑らかでクリーミーな豆腐だった。

 

昼食後は、「沢渡暮坂エリア」にある巨大なフンを転がすフンコロガシ。

作者は参加アーティストで最年長、76歳の渋川市出身の元教員、石坂孝雄。

素材はすべて木で、フンは木で枠組みをつくってまわりを土と漆喰で塗り固めてある。

土は隣のそば畑のもので、土をつける作業は多くの町民が協力してくれたのだとか。

 

続いては「伊参(いさま)エリア」。

会場の1つ、旧五反田小学校は建物自体がアートだった。

今から114年前、1909年(明治42年)に建てられた小学校で、その後、ほとんど改造されておらず、今に残っているという。

用材は近くの神社の鎮守の森から切り出したもので、建設費用や敷地の造成には村中の力を結集して、地元民の寄付や勤労奉仕で賄われたという。大工も地元出身の名人と呼ばれた大工さん。まさしく村人たちが自分たちの手でつくったわが子のための小学校だった。

教室の壁は一部が障子張りだった。

 

教室に差し込む秋の日差しが、作品をよけいに際立たせる。

鳥越義弘「Gathering Scenery」。

「月日が流れ、散り散りになった景色を見つめて、紙に留める」と案内板にある。

 

大貫仁美「かつては少年であり、少女だった」。

 

半澤友美「叙景」。

 

アニタ・ガラツツァ「グレックラー」

作者は、故郷のオーストリアの山間部にあるザルツカンマーグート地方に伝わる公現節の前夜1月5日の伝統的な民俗行事を再現している。

この地方では灯籠のような大きな星型の飾りをかぶった人々が練り歩くグレックラー・ラウフェン(Glöckler laufen)というパレードが行われる。ベルの音と明るい輝きで、善霊に救いと祝福を求め悪霊を追い払うのだという。グレックラーが頭に載せているカラフルな飾りは最大20㎏もあり、同じものが2つとない手の込んだ芸術作品なのだとか。

しかし、かつてのオーストリアアルプスは貧しく、男たちの多くは失業していた。そこで、施しを求めて紙の箱で帽子をつくり、公現祭の前夜に一軒一軒を歩き回ったという。

作者は、その時代の貧しいオーストリアアルプスを懐かしむように、日本の年代物の紙を使って、ふるさとの風習を日本の地によみがえらせた。

 

「伊参エリア」は、町のシンボルでもある霊山嵩山(たけやま)の麓に広がるエリア。

関未来「景色を生む」。

毎年、ここではこどもの日に多くの鯉のぼりが上げられるというが、オレンジ色の布が空にのぼっていくようだった。

 

「伊参エリア」の「イサマムラ」と呼ばれる旧伊参小学校。

2階の廊下に展示された長さ14mの絵巻「山の風景」。

作者は作品制作のため吾妻郡に移住したという山形敦子。

彼女は札幌生まれで2012年からフィリッピンに住み、日本とマニラを行き来していたが、今は東吾妻町に在住という。

移住したおかげで「山が身近になり、人間味を感じるようになった」と、浅間山や榛名湖など県内各地をまわって作品づくりを行っている。

東吾妻町から中之条の山々を見た風景から始まり、榛名湖での滞在から榛名山と榛名湖、北軽井沢での滞在から浅間山、さらに妙義山麓での滞在制作より妙義山と、山の近くでの滞在経験を元に「山の風景」を描いていて、最初は約3mの長さだった絵が、山と出会う度に伸びていき、中之条での制作が終わった今は約 14mの絵巻となった。

 

野口桃江「Hacked piano:Revivify52328」

伊参小学校に残された古いピアノ。

楽器のメカニックを残しながら、脈拍を音に変換して自動演奏する装置「Hacked piano」。

鍵盤に指を置くと、それを感知し脈拍に合わせてピアノが音を奏でる。

 

廃校した旧町立第四中学校を利用した伊参スタジオ公園にあった「ジェット二宮金次郎像」(作者・飯野哲心)。

2013年の中之条ビエンナーレの作品。

“永久保存版”になってるみたいだった。

 

長くなったので本日はここまで。以下、続く。