フランス・ローヌの赤ワイン「クローズ・エルミタージュ・キュヴェ・クリストフ(Crozes Hermitage Cuvée Christophe)2021」
シラー100%の赤ワイン。
食の街リヨン市の南、ローヌ川沿いに広がるのがローヌ地方。
このワインがつくられるヴァレ・デュ・ローヌ、とりわけシラーを主体とした北部ローヌは、カベルネ・ソーヴィニヨンのボルドー、ピノ・ノワールのブルゴーニュと並ぶ銘醸地として知られている。
ワインの友で観たのは、民放のBSで放送していたアメリカ映画「僕はラジオ」。
2003年の作品。
原題「RADIO」
監督マイク・トーリン、出演キューバ・グッディング・Jr、エド・ハリス、アルフレ・ウッダード、デブラ・ウィンガーほか。
アメリカで最大の発行部数を誇るスポーツ専門誌スポーツ・イラストレイテッドに掲載された実話を映画化。
1976年、アメリカ南部、サウスカロライナ州アンダーソンにある高校でアメフトチームのコーチを務めているハロルド・ジョーンズ(エド・ハリス)は、アメフトをこよなく愛し、曲がったことが大嫌いな熱い男。
彼は練習場の周りをいつもうろつく黒人青年(キューバ・グッディングJr.)のことが心にひっかかっていた。知的障害を持ち、何をするでもなくいつもひとりでショッピングカートを毎日黙々と押しているが、ある日のこと、チームの生徒たちが転がったボールを持っていかれたことを理由に彼を痛めつけてしまう。
それを知ったジョーンズは生徒たちを叱り、お詫びの気持ちから彼にチームの練習を手伝ってくれと頼む。母親ゆずりの音楽好きのその青年は片時もラジオを離さない。ジョーンズは彼に“ラジオ”というニックネームをつけ、試合や学校の授業にも参加させる。持ち前の明るさと純粋さでたちまち人気者になるラジオ。しかし、そんな彼の存在を快く思わない者もいて・・・。
ジョーンズと校長の働きにより、ラジオは高校の名誉卒業生として表彰を受け、以後も高校の2年生にラジオが望む限りずっと居ていいことになる。ラジオは50代をすぎてもその高校の2年生として町中の人気者として生活しているという。
また、ジョーンズはサウスカロライナ州のコーチの殿堂入りを果たす。教職を退いたあとも、ラジオとの友情はずっと消えなかったという。
見ていて気になったのは、ジョーンズはなぜそこまで黒人青年のラジオが気になり、街をうろつく彼に手を差しのべたのかということで、なかなかその理由が語られなかった。
映画の後半になって、ジョーンズは娘に「なぜ私がラジオを見捨てられないのか、理由を話そう」と話し出す。
彼は12歳のとき新聞配達のアルバイトをしていて、配達途中に彼と同じぐらいの年かさの少年が、ある家の金網の中に閉じ込められていた。何かの事情でそういう生活を強いられていたのだろうが、彼は2年間、同じ道を通ってその少年を見続けたが、何もしなかった。
彼は「何もできなかった」ではなく、「何もしなかった」ことを悔いていた。そのときの悔いが、何十年もたったときにむくむくと蘇ってきて、彼は行動に出たのだった。
ついでにその前に観た映画。
民放のBSで放送していた韓国映画「1987 ある闘いの真実」。
2017年の作品。
原題「1987」
監督チャン・ジュナン、出演キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、カン・ドンウォン、ユ・ヘジン、キム・テリほか。
1987年1月の学生活動家・朴鍾哲の拷問致死事件と、それをきっかけとした韓国の民主化運動の高まりを描く。
全斗煥大統領による軍事政権下の韓国では、北朝鮮のスパイを摘発するとの理由で保安組織が設置されていて、そのひとつが南営洞対共分室といわれる部署だった。しかし、反共を理由にしながらも、実際には民主化運動家や反政府勢力の取り締まりに力が入れられ、国家権力による人権侵害が平然と行われていた。
ソウル大学生で当時22歳の朴鍾哲が南営洞対共分室に摘発され、取り調べと称して殴打や電気責めなどの拷問を受け、水責めの際に浴槽の縁で胸部を圧迫され窒息する。
当初、当局側は「机をたたいたら“あっ”といって心臓マヒにより死亡した」と発表。しかし、死亡後に立ち会った医師や関係者の証言などから拷問死の事実が明るみに出たことで民衆の怒りが爆発。同年6月、大統領の直接選挙制を求める民衆大会が開催され、大会の前日には延世大学の学生が戦闘警察の催涙弾に当たって重体(1カ月後に死亡)となる事件もあり、民衆デモは全国に拡大。
翌年にソウルオリンピックが控えていたこともあり、全斗煥政権は大統領の直接選挙制を承諾するなどして「民主化宣言」の発表に追い込まれる。
本作での登場人物のうち、刑務所の看守ハン・ビョンヨン(ユ・ヘジン)は実在の複数の人物を組み合わせたキャラクターで、ヒロインであるハン・ビョヨンの姪で延世大学の学生ヨニ(キム・テリ)は架空の人物だが、そのほかはすべて実在の人物というから、かなり史実にもとづく生々しい映画だった。
この映画を見ていて、まったく同じように虐殺された人のことを思い出した。
戦前のプロレタリア作家で、特高警察の拷問により29歳の若さで殺された小林多喜二だ。
彼は1933年(昭和8年)2月、特高警察に捕らえられて築地警察署に連行され、3時間以上の拷問の末、死亡した。警察は死因を心臓マヒと発表したが、自宅で遺体を見た医師や友人らが両足などに暴行の痕を確認し、拷問により殺されたのは明らかだった。
死因を明らかにするため病院で解剖してもらおうとすると、警察からの指示によるものかどこの病院も解剖を拒否。死を悼んで通夜・告別式に足を運んだ人たちもことごとく検挙されたという。
特高に逮捕され拷問や虐待によって命を落とした人は彼だけではなかった。当時、治安維持法という希代の悪法が存在していて、「主権在民」や「戦争反対」を主張すれば最高刑は「死刑」とされた。
その矛先は左翼の人々だけでなく、進歩的な考えを持っている学者、文化人、宗教者などにも及び、治安維持法による逮捕者は数十万人、拷問・虐待死は100人以上、牢獄の劣悪な環境下で病気になり死亡した人は1500人を超えるといわれる。しかし、拷問や虐待の事実はことごとく闇に葬られ、真相が不明のまま。
戦後になって、弾圧の被害者たちが真相を明らかにしようとした例として「横浜事件」がある。
これは太平洋戦争下の1942年から45年にかけて起きた特高警察のでっち上げによる言論弾圧事件で、治安維持法違反の容疑で編集者、新聞記者ら約60人が逮捕され、約30人が有罪となり、4人が獄死した。
戦後、無実を訴える元被告や家族らが粘り強く再審の請求を続け、2005年にようやく再審が開始されたが、裁判所は罪の有無を判断せずに裁判を打ち切る免訴の判決をいい渡し、権力による犯罪にフタをしてしまった。
小林多喜二の虐殺は90年前のことだが、韓国では30数年前まで、多喜二と同じような虐殺とその隠蔽が国家機関により行われていたことになる。
民放のBSで放送していたフランス・ポーランド・スイス合作の映画「トリコロール 白の愛」。
1994年の作品。
原題「TROIS COULEURS: BLANC」
監督クシシュトフ・キエシロフスキー、出演ズビグニエフ・ザマホフスキー、ジュリー・デルピー、ズビグニエウ・ザマホフスキほか。
ポーランドの映画監督による青、白、赤のフランス国旗をモチーフにした三部作「トリコロール」の第2作。
舞台はパリ。まだ片言のフランス語しか話せないポーランド人のカロル(ヤヌーシュ・ガヨス)は、性的不能が原因でフランス人の妻ドミニク(ジュリー・デルピー)から離婚を突きつけられる。カロルは裁判所で時間がほしいと哀願するが、ドミニクはもう愛してないといい捨てる。
家からは追い出され、行き場をなくしたカロルは、地下鉄の通路で同郷のミコワイ(ズビグニエウ・ザマホフスキ)に出会い、ミコワイの協力で故郷ポーランドへの密航に成功。だが、妻のことが忘れられないカロルは、とんだ計画を思いつく。
やがて彼はポーランドで金持ちになって、妻に奇妙な復讐をしようとするのだ・・・。
フランス語で「白」は「blanc」というのだそうだ。
そういえば白ワインはフランス語で「vin blanc」。
白ワイン用のブドウ品種で有名なのは「sauvignon blanc」。
ヨーロッパアルプス最高峰のモンブラン(mont blanc)は「白い山」という意味だ。
「真っ白な心」はフランス語で「cœur blanc(クール ブロン)」というそうだが、本作の主人公、カタコトのフランス語しか話せないポーランド人のカロルの心はまさしく「真っ白な心」なのか。
「真っ白な心」っていったいどんな心?と思うのだが、フランス国旗を構成する3つの色は、俗説かもしれないが青は「自由」、白は「平等」、赤は「博愛」を意味するらしい。
とすると本作の「トリコロール 白の愛」とは、男女の愛の平等をいいたかったのだろうか。