東京・霞が関のイイノホールで柳家三三(さんざ)の落語を聴く。
小三治なきなあと、若手で一番期待している落語家。
といっても今年47歳。昨年10月に亡くなった小三治に入門してから29年。年数ではほかの世界では中堅、ベテランの部類かもしれないが、落語の世界ではまだ若手。
2016年に芸術選奨新人賞を受賞しているが、このとき42歳。奇しくも師匠の小三治が芸術選奨新人賞を受賞(1981年)したのも、同じ42歳のときだった。
きのう聴いたのは「月例 三三独演2022」といって、2005年から行っている三三の自主公演。
500人入るイイノホールはほぼ満員。女性も多くて、なかなか人気のようだ。
演目は「一目あがり」「星野屋」、そして仲入りのあと「大工調べ」。
一夜に三つの噺を一気に語る。登場人物だけで10人はいる。長屋の八っつあんからご隠居、大店の主人、お妾さん、少し足りない与太郎に大工の棟梁、江戸町奉行大岡越前守まで、1人でそのすべてを演じ分ける落語ワールド。
中でも「大工調べ」は50分に及ぶ熱演で、一人芸の落語のおもしろさを堪能した夜だった。
実は三三を期待しているといっても、ナマで聴いたのは小三治を聴くときの前座とか、小三治が急逝して代役で出たときぐらいで、ちゃんとじっくり聴いたのはきのうが初めて。
聴いてますます応援したくなった。
ちなみに毎月1回、イイノホールでやっている「月例 三三独演」は演目 の1つはすでに決まっていて、7月以降は次の通り。
第182回 7月12日(火)「蜘蛛駕籠」
第183回 8月18日(木)「夏の医者」
第184回 9月16日(金)「竹の水仙」
第185回 10月13日(木)「素人鰻」
第186回 11月10日(木)「柳田格之進」
第187回 12月8日(木)「富久」
この「月例 三三独演」は三三にとっても特別の思い入れがあるようで、次のようなことをいっている。
「この会は、ネタ下ろしではないけれど、過去にしっくりこなかったもの等を練り直し、またお客さんの前でやらせていただく。そのような冒険ができる場なんです。昔からのお客さんには、『あの噺がこうなったか』と聞いていただける。その意味で、言い方は悪いですが、当たりもあれば外れもある(笑)。けれども三三という噺家の活動のドキュメントを、一番感じていただける会だと思います」
きのう聴いた「大工調べ」は、大工の棟梁の啖呵が聞きどころで、口跡のよさ、立て板に水のしゃべりでは当代屈指の三三にぴったりの演目だったが、どうしても「大工調べ」といえばこの人ありの古今亭志ん朝と比べてしまう。あと10年、20年したらひょっとしたら志ん朝に負けないぐらいになっいているかもしれない。
それまで待たなくちゃいけないのが芸というものなのかもしれないが、待つ楽しさがあるのも芸というものなのだろう。
それまでこちらの命が持つかどうか、それはわからないが・・・。