群馬県南部の太田市にある金山城見学のあと、前橋到着は午後4時すぎ。まだ日が出ているので市内を観光しようと駅構内にある観光案内所へ。
一番人気と勧められたのは群馬県庁の32階からの眺め。
行ってみるとたしかにいい眺めだった。何しろほかに高い建物がない。
見どころのもうひとつとして「臨江閣」という国指定の重文があるが、そこはコロナ禍で現在閉鎖中だとか。
そこで群馬県庁32階から臨江閣をのぞむ。
県庁の隣のレトロな雰囲気の「昭和庁舎」1階のカフェでお茶タイム。
歩いて「白井屋ホテル」へ。
県庁近くのメインストリートにあるのがこのホテル。
もともとは「白井屋旅館」として江戸時代から続く長い歴史を持ち、明治から昭和にかけては宮内庁御用達ともなり、かの文豪・森鴎外も訪れたという。
衰退する地方都市。それは前橋も例外ではない。いやむしろ衰退の大波に襲われているのが前橋ではないか。
絹産業の一大拠点として栄えたのは遠い昔の話。江戸時代から約300年続いた歴史ある宿も1970年代にホテルに転換したが、2008年に廃業に追い込まれた。建物は取り壊しが計画されたが、街の再生と活性化の動きの中で再生プロジェクトがスタート。約5年に及ぶ改修および新棟の建設を経て、暮らす人と訪れる人が集い交流するリビングルームのような新たなアートと食文化の発信の場として生まれ変わったのが白井屋ホテルだ。
建築、内装の設計を主導し全体のデザインを手がけたのは建築家の藤本壮介。老舗旅館の旧白井屋の建物を大胆にリノベーションし、コンクリートの構造を剥き出しにした大胆な吹き抜けが印象的なヘリテージタワーと、利根川の旧河川の地形を活かして土手をイメージして新築されたグリーンタワーの2棟から構成されている。
ファサードにはローレンス・ウィナーの作品が配置され、一際目を引く外観。
フロントには杉本博司の「海景」。
4階までの吹き抜けがすばらしい。
この吹き抜けのために元あった白井屋ホテルの部屋をいくつも減らしたという。
金沢21世紀美術館の常設作品や森美術館の展覧会などでも話題になったレアンドロ・エルリッヒによる幻想的な光を用いた「Lighting Pipes(ライティングパイプ)」をはじめとしたアートが訪れる人を迎えてくれる。
グリーンタワー頂上の小屋には宮島達男の作品が展示され、夜10時以降になると小屋の中に入って彼の作品を体感することができる。
客室は10タイプ、25室。すべての客室には群馬を拠点に活動する作家の作品や世界中から厳選した作品がしつらえられていて、英国の著名デザイナー・ジャスパー・モリソン、イタリアの建築界の巨匠・ミケーレ・ デ・ルッキ、レアンドロ・エルリッヒ、藤本壮介による4つのスペシャルルームが用意されていて、今回泊まったのはレアンドロ・エルリッヒの作品に囲まれたスペシャルルーム。
黄金色に輝くパイプが張りめぐらされた部屋の内部。
パイプむき出しの工場とか工事現場かと思いきや、これが癒されるんだなー。
パイプから放たれる優しい光。部屋の中を自由にめぐらされた造形の美しさ。世界にたったひとつだけのアートに囲まれながら一晩をすごすシアワセ。
この人の作品に最初に出会ったのは2006年の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」だった。3年に一度、新潟県十日町市で開かれる現代アートの祭典で、「妻有の家」と題する作品だった。
地面に寝そべるようにひっくり返った形で3階建ての家がつくられていて、それが巨大な鏡に映しだされている。作品を見に来た人はそのひっくり返った家の上に寝ころび、さまざまなポーズで楽しむことができる。
家は住むための空間だけでなく、遊びの空間でもあるのだ。
今回泊まった白井屋ホテルのレアンドロ・エルリッヒの部屋も、ただ寝るだけでなくアートを楽しむ部屋だった。
夕食までは時間があるのでホテル周辺を散歩。
夜ということもあるだろうが、アーケード商店街は閑散としていた。
1冊100円の無人古本屋。
群馬県民は子どものころからチャンチャンコを愛用してるらしい。
魚屋さんはがんばって営業していた。
夕食はホテルのメインダイニングである「the RESTAURANT」で。
ミシュランガイド東京で2つ星を獲得した青山のフレンチレストラン「フロリレージュ」のオーナーシェフ川手寛康氏の監修のもと、地元群馬出身の片山ひろ氏が国内外の名店での2年間に及ぶ研修を経てキッチンに立っているという。
オープンキッチンになっていて、味を楽しむとともに目の前での職人の技も堪能できる。
料理は驚きの連続。食べる側を驚かせ、何かを発見させることも味のひとつではないか、そう思えるような料理だった。
1つ1つの料理に、料理に合ったワインや日本酒その他がペアリングされる(最近はマリアージュとはいわないらしい)。
まずはコンソメ。
18世紀のパリで、ある料理人が一杯のブイヨンを売り始めた。慈悲深い味わいで、体をあたためるそれを人々は「レストラン」と呼んだ。これがレストランの始まりという。そこで本日は一杯のコンソメから料理を始める、とシェフの言葉。
山女魚
えっ?これがヤマメ?と驚くが、たしかに極上のヤマメだった。
OKIRIKOMI
群馬の郷土料理に「おきりこみ」というのがあり、そこで使われる素材でつくられたまったく新しい料理。
すっぽん 白菜
白菜の下にスッポンが隠れている。
農園より
地元で採れた16種類の野菜のおいしいこと!
牛 大豆。
やはり地元産の牛のステーキ。
藁で焼いてくれたが、肉の色の美しさ!は写真ではあらわせられない。
肉がアートだった。
デザートのゆず
おいしい料理とお酒でシアワセな夜。
夜の10時以降なら宿泊者のみに宮島達男のアートが鑑賞できるというので、ホテル裏手のグリーンタワーのてっぺんにある小さな部屋の中へ。
点滅するLEDの光。
翌朝はオールデイダイニング「the LOUNGE」で朝食。
ビッグなサンドイッチ、分厚いベーコンに感動。
チェックアウト前に周辺を散策。
昔ながらの写真館。
街の真ん中から山が見える。
アーツ前橋。
地域密着型の市立美術館だそうで、建物を設計したのは武蔵野大学の水谷俊博准教授。毎年、善福寺公園で開催している「トロールの森」に武蔵野大学水谷研究室として参加している方だ。
市内中心部を流れる広瀬川のほとりで前橋が生んだ詩人、萩原朔太郎がモミジの下で考え込んでいた。
岡本太郎作の「太陽の鐘」。
広瀬川をさらに下流方向に歩くと、川が斜面を勢いよく流れ落ちている場所がある。
「交水堰」と呼ばれる堰だ。
かつてすぐそばに製糸工場があり、流れ落ちる川の勢いを利用して水車がまわり、動力源としていた時代もあったという。
改めて白井屋ホテルの朝のグリーンタワー。
午前10時前にチェックアウトし、ホテル前を10時発のバスで渋川駅へ。
40分ほどで渋川駅着。駅前は閑散としている。
駅構内の観光案内所のおじさんがとても親切で、関越交通バスの1日フリー乗車券(大人800円)を買えば普通に伊香保温泉-渋川間を往復するより安いですよ、というので購入。
伊香保温泉までの途中で料金100円のタウンバスに乗り換えて湯元へ。
そこから1分のところにあるのが伊香保温泉露天風呂。
料金は大人450円だが、「1日フリー乗車券」を持っていると250円でオーケー。
お昼ごろだったが、客はだれもおらず、独占状態で「いい湯だな~♪」
湯元の源泉地だけに「黄金(こがね)の湯」の掛け流し。
温泉を楽しんだあとは温泉街を散策。
平日ではあったが、客が少ない。店も閉まっているところが多い。
伊香保温泉名物の石段街もあんまり人がいない。
コロナの影響をモロに受けているのか。
ただ、おじさんおばさんはほとんど見なかったが、意外と若い男女のカップルとか女の子2人連れはよく見た。最近の若い人のデートスポットなのだろうか。
お昼を食べようと思ったがどの店も閉まっている。
結局、365段あるという石段を全部下っていって、ハス乗り場近くの「茶屋たまき」でうどんセット。
その後、バスで高崎まで出て、新幹線で帰京。
ローカル鉄道やバスはゆったり・のんびりだったが、新幹線の早いこと。
一気に現代に引き戻された。
(おわり)