善福寺公園めぐり

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きのうのワイン+映画「わたしはダニエル・ブレイク」

イタリア・ウンブリアの赤ワイン「トーディ・ロッソ(TODI ROSSO)2019」f:id:macchi105:20200902172842j:plain

ワイナリーはウンブリア州最大規模といわれるカンティーナ・トゥデルナム。

ウンブリア州イタリア半島のほぼ中心に位置し、イタリアで唯一海に面していない州。半分以上が山岳地帯で、残りは丘陵地帯。谷合いには川が流れ、渓谷が形成されており、「緑のウンブリア」と呼ばれるほど豊かな自然に恵まれているんだとか。

そういえば、何年か前、イタリアを旅したときに訪れたアッシジウンブリア州にあった。

そのアッシの南30㎞ほどのところにあるトーディがカンティー・トゥデルナムの本拠地。1958年の設立と新しいが、トーディ周辺の350ものブドウ生産者からブドウを集め、いわゆるネゴシアン方式でワインをつくっているという。

サンジョヴェーゼとメルロをブレンドし、柔らかい飲み口。

 

ワインの友で観たのは民放のBSで放送していた映画「わたしはダニエル・ブレイク」。

2016年の作品。

監督ケン・ローチ、出演ディブ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナンほか。

 

愛する妻に先立たれ、身寄りのない59歳のダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は、イギリス・ニューカッスルで大工の仕事に就いていたが、心臓の病でドクターストップがかかる。失職した彼は国の援助の手続きを進めようとするが、あまりにもややこしい制度、冷たい対応しかしない職員を前に途方に暮れる。そんな中、ダニエルは2人の子どもを持つシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と出会う。

 

映画で描かれる冷たくて理不尽な行政の対応を見て、イギリスも日本も同じだなとつくづく思う。つまり、ここで描かれているのは日本のわれわれのことでもあるのだ。

日本と同じようにイギリスでも、行政は市民がどんなに困窮しても、権利を主張し続けなければ何もしてはくれない。税金や公共料金をちょっとでも滞納すればすぐさま支払いを迫ってくるが、市民が当然受けるべき公的な援助を必要としても、複雑な手続きを経て請求しない限り、手をさしのべてはくれないのだ。

 

映画の中で、同じ弱者であるダニエルとケイティ、それに近所に住むやはり貧しい若者たちは、互いに助け合うことでたくましく生きていこうとする。

しかし、それにも限界がある。

 

弱者に対するひどい仕打ちにより人間としての尊厳を傷つけられたダニエルは、最後にこう叫ぶのだ。

わたしは、ダニエル・ブレイク。人間だ、犬ではない」

 

この映画をみて、1948年のイタリア映画でヴィットリオ・デ・シーカ監督の「自転車泥棒」を思い出した。

「ひまわり」と並ぶデ・シーカ監督の名作だ。

 

役所の広告貼りの仕事を得た失業労働者の男が、仕事に必要な自転車を盗まれてしまい、6歳の息子とローマの街を歩き回って自転車を探し回る物語だった。結局自転車は見つからず、切羽詰まって他人の自転車を盗んでしまうが、一緒にいた息子に免じて見逃してもらう。明日への希望も失った親子は、手をつないでトボトボと雑踏の中を歩いていく、というのがラストシーンだった。

 

映画を見終わって、あの男はこれからどうするんだろう、結局また一人でやり直すしかないんだろうか、せめて仲間をつくるとか、労働組合でもあれば、と思ったものだった。

 

きのうの映画を見て、70年も前の話であるはずの「自転車泥棒」を見たときと同じ思いを抱いた。

たった一人で国や行政に立ち向かったって、結局は諦めるしかないのだ。

せめて、支え合い、一緒に声を上げる仲間がいれば・・・。