善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト

新宿ピカデリーで27日から上映が始まったセルジオ・レオーネ監督のマカロニウエスタン「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」を観る。

平日にもかかわらずほぼ満員の盛況。昔懐かしい西部劇だからか、オジサンが多い。

 

この映画、日本では「ウエスタン」という題名で劇場公開された1968年製作のイタリア・アメリカ合作の映画。もともとは上映時間165分、ほとんど3時間近い大作だったが、それじゃあ客は来なかろうと大幅カットされて2時間21分の短縮版で196910月に劇場公開された。

初公開から50年がたって、レオーネ生誕90年・没後30年にもあたる今年、原題の英訳「Once Upon a Time in the West」をそのまま訳した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」に邦題をあらためて2時間45分のオリジナル版として劇場初公開された。

新宿ピカデリーは松竹系の映画館。そういえば松竹製作の「男はつらいよ」の第1作が公開されたのも1969年の夏。第1作の公開から50周年を迎えるというので、シリーズ50作目となる「男はつらいよ50 おかえり、寅さん」を12月に公開予定だ。

ナンカ50に因縁がある。

 

それはともかく、レオーネの思い入れがプンプンするのが本作。

何しろ最初の導入部だけでエンエン20分近くかかっている。

 

荒野にたたずむ鉄道の駅に、一癖も二癖もありそうなロングコートのガンマン3人がやってくる。たった1人いた老駅員を小部屋に閉じ込めて、それぞれの格好で汽車の到着を待つ。1人は居眠りしながら、1人はポタポタ垂れる水の下で、1人は指をポキポキいわせながら・・・。

居眠りしている男の髭面にはハエがたかる。口でフッと吹いてハエを追っ払おうとするが、ハエは逃げずに顔中を這いずり回る。フッ、フッを何度も繰り返し、やっとハエを追っ払ったところで、汽笛の音。

やがて汽車が到着するが、荷物が一個ドサッと投げ落とされるだけで、降りる人はいない。再び汽車が走り出す。するとどこからともなくハーモニカのメロディ。

煙を残して汽車が走り去った線路の向こう側に立っていたのは、ハーモニカを吹く男。たちまち4人の銃口が火を噴き、生き残ったのは、ハーモニカの男だけだった。

 

監督セルジオ・レオーネ、音楽エンニオ・モリコーネ、出演クラウディア・カルディナーレヘンリー・フォンダ、ジェイソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソンほか。

イタリアの女優クラウディア・カルディナーレが気丈なヒロインを演じ、ヘンリー・フォンダが冷酷無比な悪役。チャールズ・ブロンソンがハーモニカを吹く寡黙なガンマン役。

 

舞台は、大陸横断鉄道の敷設により新たな文明の波が押し寄せるアメリカ西部。

ニューオーリンズから嫁いできた元高級娼婦のジル(クラウディア・カルディナーレ)。ところが彼女が汽車で到着するその日の朝、夫となる男もその子どもたちも、突然襲撃してきた悪党のフランク(ヘンリー・フォンダ)らによって皆殺しにされてしまう。

ジルは広大な荒地の相続人となるが、その土地には、やがて鉄道が敷かれることによって得られる莫大な価値があり、それをめぐっての争いが繰り広げられる・・・。

 

ヘンリー・フォンダのあんな冷徹非道の悪人役を初めて見た。しかし、根が甘いマスクでカッコよくて、天性の善人キャラだけに、見ていてどうしても憎めないから不思議。そもそもヘンリー・フォンダのファンだけに、どうしても肩入れしてしまう。

 

ジェイソン・ロバーズ演ずるお尋ね者の男、シャイアンがなかなかよかった。暖かみと、人生の哀しみと、その両方を持った男。彼が主役でもいいぐらいだった。

 

あるいはこの映画の主役は鉄道であるかもしれない。

 

アメリカで最初に大陸横断鉄道が開通したのは1869年といわれる。

リンカーン奴隷解放を宣言してから6年後のことだ。鉄道の開通によりアメリカの西部開拓は加速度をつける。そして、急激に移り変わる時代とともにガンマンたちの世界も落日を迎えるのだった。

それだけに、ガンマンたちの悲哀が伝わってくるような映画だった。

 

映画の最後に、街を出て行くためハーモニカが家の中からドアを開けるシーンがある。

彼の目の前に広がっているのは、鉄道敷設のために黙々と働く人たちの姿だった。