善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

ネルーダ事件

きのうは根岸にあるヤキトリ屋「鳥茂」を久々に訪問。
4人掛けのテーブル2つ、2人用のテーブル1つ、それに12、3人ぐらいは座れそうなカウンターの小さな店だが、きのうは開店時間の6時ジャストに行ったら、先客が2人。おもむろに席に着いたら、直後に次々と客がやってきて、数分後にはほぼ満員で、店内はごったがえす感じになった。
「湧いて出る」という言葉があるが、まさにそんな雰囲気。
いつもの定番の頼み方、メニューの最初にあるのから順番に頼んでいって、2回り目に入ったところでさすがに満腹、ギブアップ。1カ月分のヤキトン、ヤキトリを食べてしまった感じ。
酒は「大関」のお燗。これがヤキトリに合う。

深酒したおかげで夜中から朝にかけてのサッカー観戦はなし。
B組はスペインがチリに敗れ、チリはオランダとともに決勝トーナメント進出。

ロベルト・アンプエロ『ネルーダ事件』(ハヤカワ・ポケットミステリーブック)を読む。

南米チリの首都サンティアゴの北西、太平洋に面した町バルパライソ。そこで長年探偵業をしているキューバ人のカジェタノ・ブルレは、カフェでコーヒーを飲みながら、自分が探偵として初めて手がけた事件を思い出していた。
それは1973年、民主的な選挙で選ばれたアジェンデ大統領が樹立した社会主義政権が崩壊の危機を迎えていた時のことだった。キューバからチリにやって来たカジェタノは、革命の指導者でノーベル賞を受賞した国民的詩人パブロ・ネルーダと出会い、ある医師を捜してほしいと依頼される。
彼は調査を始めるが、ネルーダの依頼には別の目的が隠されていた。メキシコ、キューバ東ドイツボリビアへと、カジェタノは波瀾の捜索行を続ける・・・。

それまで、社会主義政権は武力による革命によって成立していたが、初めて民主的な選挙によって成立した社会主義政権がアジェンデ政権だった。
アジェンデはアメリカなどからの従属を脱して、独立と自主を掲げ、鉱山や外国企業などの国営化と封建的土地所有制の解体などの改革を行った。しかし、アメリカCIAの後押しを受けた右翼と軍部のクーデターによって政権は崩壊。アジェンデは死に追いやられた。その後、20年近くにわたってピノチェト将軍による軍事独裁体制が敷かれたが、独裁政権による左翼狩りにより、死者・行方不明者は数千人、投獄や拷問を受けた人は10万人にものぼったといわれる。

物語の最後に、アジェンデ政権が倒れる数日間の出来事が生々しく描かれている。

舞台が南米チリだからか、とてもトロピカルな表現が随所にあった。たとえばこんなところ。
「カジェタノはそこで若い娘とクンビアやボレロを踊った。黒い巻き毛、オリーブ色の瞳、カフェオレ色の肌をしたその娘は、アマランサスの花のような赤紫のブラウスを着て、笑うときれいにそろった大きな歯が見えた」
うーん、その若い娘に会いたくなった。
というわけで、欧米のミステリーとはまるで違うラテンアメリカ・ミステリーを堪能できた。

それにしても詩人とはかくも恋多き人間なのか。
小説の中で、ネルーダ自身が言っている。
「変装のしかたを知らない探偵は、酒も美食も女も知らない詩人みたいなものだ」

いい言葉だ。