善福寺公園めぐり

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強い者は生き残れない

吉村仁『強い者は生き残れない』(新潮選書、2009年発行)を読む。

「環境から考える新しい進化論」という副題の本書、著者は大学教授で専門は数理生態学。主に進化理論を研究しているという学者サン。
約40億年という生物史を振り返ると、生き残っているのは「強いもの」ではなく、環境変動の中で「互いに協力し合って群れる者」「共生する者」が生き残れる、と説く。

おもしろかったのは、「強者こそ勝ち残れる」とする現在の経済学のどこが間違っているかというと、「富の有限性を無視したからだ」というくだり。

著者によれば、自然界や生物資源を相手にした生物経済学という考え方があるそうで、それによれば生物資源は有限であり、この点はすでにイギリスの経済学者コリン・クラーク(GNPの概念をつくった人として知られる)が指摘しているという。

著者はいう。
「彼(コリン・クラーク)は、1973年に『Science』に「過剰搾取の経済学」という論文を寄稿した。当時は自由競争をしながら水産資源を守っていくことが可能だと広く考えられていて、多くの研究者がその方法をずっと模索していたが、クラークは自由競争下における水産資源の保全が不可能であることを非常にシンプルなモデルを使って証明した」

クラークによれば、生物の増殖率から考えると、水産資源を維持しながら(減少させないで)漁獲できる量は全資源量のせいぜい2~5%である。したがって、自然の繁殖力に頼って漁業を営もうとしたら漁業の利益率も最大2~5%になる。
ところが、ビジネスの利益率は業態や景気にもよるがおよそ平均7~8%はある。この差はあまりにも大きすぎていて、純粋な経済活動としてみた場合、平均以上の利益率を上げられないならば経済活動として水産業を営む意味はない。
しかし、自由競争をする船主にとっては資源の再生産などおかまいなく、漁獲率が低くなるまで効率よく魚を取り尽くして、最後には船を売って廃業することが最適な戦略のはず。
このように何の制約もない自由経済で短期的な利益を追いかけるのはある意味、本能的であり、仕方がないことだ。
ということはつまり、自由経済下では水産業は成り立たないのである。

同じことが農業にもいえる、と著者はこう述べる。
「これは農業や森林伐採についても同様で、自然増殖にたよるすべての第1次産業で同じことが言える。そもそも1次生産者である植物が行う光合成の効率(またはそれによる生長率)は、太陽エネルギーの3%前後に過ぎない(巌佐庸他編集『生態学事典』)」

しかし、金儲けしようと思ったらそれより高い利益率(せめて7~8%)が求められるから、不足分は過剰に搾取しなくてはならず、そうなればやがて破産は避けられない。
ということは農業も水産業と同様、金儲けの対象にはなりにくいということである。

TPP推進派は「強い農業」「外国と競争して負けない農業」「外国に高く売れる農業」とかいうが、それがいかに危険なものであるかがこの指摘からもわかる。

「儲かる農業」でなく、消費者や地域に安全でおいしいものを届ける農業、それが日本の農業のめざす道でいいんじゃないかな。