善福寺公園めぐり

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国立劇場 鬼一法眼三略巻

きのうは国立劇場で『鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)』を観る。

鬼一法眼、一條大蔵卿(いちじょうおおくらきょう)の2役を中村吉右衛門。ほかに梅玉魁春歌六東蔵又五郎芝雀など。

この芝居、もともとは人形浄瑠璃によって上演され、初演は享保16年(1731)。歌舞伎に移されたのはその翌年という。
江戸時代中期のころで、時の将軍は吉宗。江戸4大飢饉の1つ、享保の大飢饉は1732年だから、日本全体からすればあんまりいい世の中ではなかっただろう。
逆にそんな時代だからこそ、いい作品も生まれるのだろうか。

話の元となっているのは『義経記』で、実は主役は義経であり、“義経伝説誕生物語”なんですね。
これに源氏の旧臣である鬼一法眼、鬼次郎(きじろう)、鬼三太(きさんだ)の3兄弟のエピソードがダブる。

全5段の構成になっていて、序と2段目は、のちに義経の家来となる弁慶の生い立ち。3段目が鬼一法眼が所持する中国の兵法書(これを持っていれば戦に勝つこと間違いなしという虎の巻)をめぐって、鬼一や牛若丸などとの虚々実々のやりとり、しかも最後には鬼一法眼は実は鞍馬山で牛若丸に剣術を教えた天狗であるとわかる。
4段目は、平氏全盛の世にあって阿呆を装っていた一條大蔵卿が、常磐御前や鬼一法眼の弟夫婦に実は源氏を応援していることを打ち明ける。そして最後の5段目が、牛若丸と弁慶の五条橋での主従の契り。

今回はこのうち、3段目と4段目が通しで上演される。

まずは鬼一法眼が登場する3段目。義太夫狂言なので、義太夫の語りに合わせた吉右衛門のセリフがすばらしく、まるで歌っている(義太夫は歌うのではなく語りだから歌っているはおかしいが)ようなセリフ回しに聞きほれる。

しかし、この段は最後に「奥庭の場」があって、そこで鞍馬山で牛若丸に剣術を教えた天狗は鬼一法眼であった、というところで話が盛り上がるはずなのだが、「奥庭」はカットされているので中途半端で終わるのが残念な気もする。
もっとも「奥庭」は見ていておもしろくないんだそうで、カットされてもしょうがないらしいが、それなら台本を脚色するとかすればいいと思うんだが。

4段目の一條大蔵卿は、吉右衛門がいきなりひょうきんな顔で出てきてびっくり。前の段の鬼一法眼の重厚さとまるで違っていて、まさに1人2役の妙。
白塗りの公家メークに、ぽかんと終始口を開け周囲をけむに巻く吉右衛門。それが一転してキリッとした顔に変わり、本音を吐露する。

最後の最後で、打ち落とした悪者の家来の首をもてあそぶようにしているところで幕となる。まるで世の中をあざ笑っているようで、皮肉ともとれる幕切れが印象に残った。

ただ、きのうの回はけっこう空席が目立った。12月でみんな忙しいのか。

[観劇データ]
鬼一法眼三略
2012年12月21日
国立劇場大劇場
午後4時30分開演
1階4列29番