善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

アラン・グレン 鷲たちの盟約

アラン・グレン『鷲たちの盟約』(新潮文庫、上・下)を読む。

「もし〇〇だったら?」といういわゆる歴史改変モノ。
大恐慌のころのアメリカ。フランクリン・ルーズヴェルトは危うく暗殺されそうになるが生き延び、大統領に就任。一方、ルーズヴェルトの政敵でポピュリストといわれたヒューイ・ロングは暗殺されてしまう。2人はともに大統領をめざしていたが、ロングの暗殺はルーズヴェルトに大統領への道を開く結果となり、「もしこの暗殺がなければ、第2次世界大戦へのアメリカの方針は大きく変わっていたかもしれない」といわれるほどだったという。

そのアメリカにとって重要な意味を持つ歴史の1コマにifを投げかけ、ルーズヴェルトは暗殺により亡くなり、逆にロングは生き延びたとしたらどうなるかを描いた作品。

舞台は、大統領となったロングがナチスドイツのヒトラーとの首脳会談を行う場所となったポーツマス市。主人公は市警の警部補見習い、サム・ミラー。ミステリーというより八面六臂の活躍で手に汗握る冒険譚という感じで一気に読ませる。上下2巻の大作だがヒマ潰しにはもってこいの小説。

宣伝文句によれば──。
1943年、アメリカ合衆国。10年前に大統領就任目前のルーズヴェルトが暗殺され、未だに大恐慌の悪夢から脱せずにいるこの大国は、今やポピュリストに牛耳られた専制国家と化している。ポーツマス市警のサム・ミラー警部補はある晩、管内で発見された死体の検分に向かうが、その手首には6桁の数字の入れ墨があった。
ところがサムは、FBIと在米ドイツ領事館のゲシュタポの結託によりこの身元不明の死体の捜査を阻まれてしまう。危険な活動に携わってきた妻や、脱走した兄に悩まされながら、彼はなおも単身、真相を突き止めるべく賭けに出る。折しも合衆国はドイツとの平和通商条約締結に合意。両国首脳はほかならぬポーツマスで会談に臨む。警備に際してFBIとの連絡役を命じられたサムが思い知る戦慄の真実とは──?

この小説の隠れた主人公、ヒューイ・ロング(小説では当時の大統領)はいま、日本の政治でも注目されているという。

現実には彼は大統領をめざしていて1935年に暗殺されてしまうが、民主党所属の政治家で、急進的なポピュリズムで有名だったという。ルイジアナ州知事をつとめたあと上院議員になる。当初、ルーズヴェルトの支援者だったが、やがて自らが大統領になることをめざすようになる。

「誰もが王様」というスローガンのもと、富裕層や大企業が独占している冨を重い課税によって吸い上げて、それを再配分する「富の共有運動」を推進したが、その手法は独裁的傾向が強く、実際、彼が君臨したルイジアナ州はロングの小帝国という趣を呈していたという。

そんなロングのポピュリズム衆愚政治などと訳される)の政治手法や独裁的傾向が、日本の橋下大阪市長のやり方と対比され、引き合いに出されているというのだ。

たしかに、ロングの手法は、反権力と保守思想が密接に結びついていて、アメリカの保守的な白人中産階級の声を代弁するものだったというが、では、橋下氏はどうか。
保守思想に凝り固まっているのは間違いようだが、とても反権力とはいえない(むしろ権力に「あれやれ」「これやれ」と自民党的政策推進のハッパをかけている)。
また、ロングは富裕層や大企業をやり玉にあげたが、橋下氏がやり玉にあげるのは公務員や労働組合であり、文楽であり、かつての従軍慰安婦の人たちであり、どちらかというと庶民の側の人たちばかりである。
そんなやり方を支持するのが庶民であるなら、庶民同士を敵対させるのが“橋下政治”というものなのだろうか。