善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

スティーヴ・マルティニ 策謀の法廷

ティーヴ・マルティニ『策謀の法廷』を読む。
作者は『情況証拠』『弁護人』などリーガル・サスペンスもので知られる人。日本では2011年2月に出版された作品。

大手ソフトウェア企業アイソテニックス社の美貌のセレブ経営者、マデリン・チャプマンが自宅で何者かに射殺された。ほどなく逮捕された容疑者は、チャプマンの身辺警護を担当していた元陸軍軍曹のエミリアーノ・ルイス。見つかった凶器がルイスの所持していた拳銃だったのだ。おまけに二人には肉体関係もあった。しかしルイスは犯行を否定し、弁護を担当することになったポール・マドリアニに、事件の背後で合衆国政府が糸を引いている可能性を示唆する――国防総省が推進する安全保障情報提供プログラム(IFS)の開発をめぐって、アイソテニックス社と国防総省にトラブルがあったようだ、と。
この“ソフトウェア・クイーン”殺害をめぐる裁判は、世間に異様な関心を呼び起こした。老獪な検事は、チャプマンから交際を一方的に断られて逆上したルイスが、自分の拳銃を用い、その卓越した射撃技術で被告を殺害したと主張。弁護人のマドリアニもたびたび見事な反論を加えるが、陪審員を説得するには不十分だ。おまけに被告には弁護人にもいまだ明かさない秘密があった。そして被告側弁論が始まった……。

法廷での攻防が真に迫っていて、読みごたえ十分だった。

へーと思ったのが、よく陪審法廷では弁護側と検察側とが裁判官の前で協議するシーンがあるが、本作では法壇のところにホワイトノイズを発生させる装置が付いていて、陪審には聞こえないような仕組みになっていることが紹介されていた。
ホワイトノイズって何だろうと調べてみたら、雑音にもいろいろあり、ほかにもレッドノイズとかピンクノイズとかがあって、「ザー」という音に聞こえる雑音がピンク・ノイズで、「シャー」と聞こえる音がホワイト・ノイズなんだとか。
日本の裁判所には、まだこんな装置はないと思うが。

もう1つ、以下は話のスジにも関係してくるので詳しくは書けないが、事件の展開に大きくかかわってくるのが米連邦議会下院の選挙区割の問題。
米下院では、10年に1度行われる国政調査の結果をもとにして選挙区割が見直される仕組みになっている。選挙区の線引きをめぐって民主、共和両党の間で、激しく、ときに醜い攻防が展開されるのだとか。
これをコンピュータのソフトウエアの段階から改竄して、特定候補に有利になるようにする犯罪が小説の中でクローズアップされる。

選挙において特定の政党や候補者に有利なように選挙区を区割りする「ゲリマンダー」は日本でもときおり問題になるが、アメリカもまた同じなのだなと思う。

というよりゲリマンダーの元祖はアメリカで、アメリカでは階層や人種の違いで居住区が分かれていることが多く、それが投票結果にも反映されることが多いという。
特に、1選挙区から1人しか当選しない小選挙区制の場合、特定の政党に投票する傾向の強い地区をうまい具合に区割りすれば、その政党に有利になるように仕向けることが可能となる。

そういう危うさを持っているのが小選挙区だ。いっそのこと全国一律比例代表制にすれば私利私欲は排されてもっとも公平で民主的な選挙結果が得られると思うのだが。