善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

アーティスト

日曜日は大泉学園のT・ジョイ大泉で『アーティスト』を観る。

2011年の第64回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した白黒&サイレントのフランス映画。今年の第84回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、主演男優賞ほか5部門を受賞。フランス映画が米アカデミー賞の作品賞を受賞したのは初めてだとか。

アカデミー賞は必ずしもハリウッド映画でなくても、また英語音声以外の外国の映画であっても、ノミネート条件(ロサンゼルス郡内の映画館で連続7日以上の期間、有料で公開された40分以上の長さの作品で、劇場公開以前にTV放送、ネット配信、ビデオ発売などで公開されている作品を除く)をクリアしていれば、作品賞を含む本賞にノミネートされるのは可能なんだそうだ。
ただし実際にはハリウッドの関係者が選出するというシステム上、純粋な外国映画はノミネートされても受賞に至ることは稀だとか。今回はその稀なケースか。

舞台は1927年のハリウッド。スター俳優のジョージ・バレンタインは若い端役女優のペピー・ミラーを見初めてスターへと導くが、折しも映画産業は無声からトーキーのへの移行期。無声映画こそ芸術で、自分はアーティストであると固く信じてトーキーへの移行を拒否するジョージが落ちぶれていく一方で、トーキーに出演したペピーはスターダムを駆け上がっていく。
監督は06年の第19回東京国際映画祭グランプリ受賞作「OSS 117 私を愛したカフェオーレ」のミシェル・アザナビシウス。

前半のサイレント全盛のころのエピソードがよく描けていて笑わせる。
「ああ映画っていいな」と思わせるシーンの連続。
ことに、端役のころのペピーがジョージの楽屋に入り込み、かけてあった彼のタキシードの袖に片腕を通して、まるで彼に抱かれているように自分を抱きしめるシーン。なんてロマンチックなシーンだろう!

ただし、このシーンと同じような演技を、去年の夏、台東区柳橋での幇間(ほうかん)芸とパントマイムのコラボ『座敷おやじ』で観ている。
パントマイマーの橋本フサヨが、羽織に別の人間が入って彼女の顔をまさぐる“羽織ダンス”をやっていた。演技しているのは橋本フサヨ1人。しかし、1人なのに2人の人間が踊りを踊っているようだった。それとまったく同じ演技だったが、『アーティスト』のこのシーンも、橋本フサヨの“1人2人羽織”も、同じ元ネタがあるのだろうか?

『アーティスト』の監督は、どこかのインタビューで「あのシーンはフランク・ボーゼイジ監督の『第七天国』(1927年作品て第1回アカデミー賞監督賞、主演女優賞など受賞)のヒロインが男性のジャケットを着てみるというシーンにインスパイアされました」といっていた。映画の舞台となった1927年のサイレント映画へのオマージュであるのは間違いない。

しかし『アーティスト』の後半部分は、あまり陳腐で、ありきたりなストーリー。
なのに感動が深くて、何度もホロリとらせられる。どうしてだろうか?
音はオーケストラが奏でる音楽だけ。白黒とサイレントがむしろ新鮮な感じで胸に迫ってくるからか。
フランス人の役者が演じるジョージ・バレンタインが、本物のハリウッドスター以上にハリウッドスターらしい雰囲気を出している。

ジョージにくっついて離れない犬が名演技。

なんといっても、陳腐な話を感動に変えたのは最後のジョージとペピーのタップダンス。たった1つの踊りが、世界を変える。それが映画のすばらしさ。
しかもこのダンスのときは音入り。ずっとサイレントで映画が進行してきて、軽快なリズムのタップに心が解き放たれた感じがした。