善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

レジナルド・ヒル 『午前零時のフーガ』

『午前零時のフーガ』レジナルド・ヒル著/松下祥子訳(ハヤカワ・ミステリ)

ダルジール&パスコー・シリーズ長編の22作目という。ミステリー通が推薦してたので読む気になったが、図書館で調べると、1月に出たばかりの新刊なのに誰も借りてない。「えー何で? 去年暮れに出たジェフリー・ディーヴァーの『ロードサイド・クロス』はいまだに100何十人も予約待ちなのに……」と思いつつ、これ幸いと借りて読む。

イギリス中部ヨークシャー州警察のダルジール警視は巨漢で飲んだくれ。下品な言葉で悪態をつき、傍若無人(このあたりになぜか共感を抱くのは年のせいか)だけど、ノンキャリアで警視まで這い上がった人物。
一方、相棒というか部下の主任警部ピーター・パスコーは、大学出で社会学の博士号を持つインテリ。そんなちぐはぐな2人がコンビを組んで数々の難事件を解決するシリーズもの。イギリスではBBCの人気ドラマになっているという。

本作では、前作で負傷したか何かしたダルジールが周囲の反対を押し切って職場に復帰。しかし体調はすぐれず、仕事の勘も戻らない。日曜日なのに月曜日と間違うほど。そこに、スコットランドヤードにいる古い知り合いの警視長パーディーから、7年前に失踪した部下の刑事について調べて欲しいと依頼される。
パーディーは部下の死亡推定を前提に、その妻と再婚するつもりだった。だが最近妻のもとに夫と思われる人物の写真が掲載された雑誌が送られてきたのだった。ダルジールは非公式に捜査をはじめるが、背後には危険な影がうごめき、ついに殺人事件が…。

手に取って、何よりポケミスの表紙が変わっているのに驚く。
読み始めると、一気に引き込まれる。ただし、1日の出来事を1冊に凝縮し、しかも、はじめ縦糸でやがて横糸でつながっていく話があちこちで同時進行で進んでいく(その意味では「フーガ」というタイトルはピッタリ)もんだから、名前が出てくるたびに「ハテこの人は?」と巻頭に戻って「登場人物」と照らし合わせたりする。とにかく横文字の名前に弱いワタクシメなのでありました。

終わり方が秀逸。ホロリとさせられて、最後の最後にスカッとさせてくれる。これこそミステリーの醍醐味。

イギリスの話だが、昔のことわざや小説・芝居の名文句のもじりなどが随所に出ていて、イギリスのことなんか何も知らない者にはチンプンカンプンでも、多少でも知っている人ならニヤリとするだろう。

日本の刑事ものはあまりにもウソっぽくて(現実を見ているだけに)、最近はほとんど読まないが、外国のは、はるか遠くの話だけに虚構の物語つまり小説として楽しんで読めるのがいい。
ストーリーも巧みだし、ユーモアというか下品な言葉の掛け合いが、またおもしろい。