善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

国立新美術館 ダリ展

六本木の国立新美術館で開催中の「ダリ展」を見に行く(12月12日まで)。
イメージ 1

スペインに生まれたサルバドール・ダリ(1904年-89年)は20世紀美術を代表する一人。
1929年、ということは彼が24、5歳のとき彗星のようにパリの美術界に登場し、シュルレアリスムを代表する画家として活躍するようになる。

初期作品として最初に展示されている彼が14歳のときに描いた「魔女たちのサルダーナ」を見て驚く。
4人の魔女が暗い海辺で手をつなぎながらダンスを踊っている。「サルダーナ」というのは彼の出身地であるカタルーニャ地方の伝統的な踊りで、男女が手をつないで踊る集団舞踊だという。
この絵を見てすぐに連想したのがマティスの「ダンス」だった。

明らかにダリはマティスの影響を受けてこの絵を描いていると思うが、すでに彼の独自の感性が表現されている。恐るべき14歳。かれはきっと天才だったに違いない。

しかもただの天才ではなく、マティスだけでなくラファエロフェルメールなどいろんな人の絵から学んで独自性を磨いている。これこそ本当の天才だろう。

1923年の「キュビスム風の自画像」で早くもシュルレアリスムが顔をのぞかせている。19歳のときの作品だ。のちにダリは自分の制作方法を「偏執狂的批判的方法(Paranoiac Critic)」と称して、写実的描法を用いながらダブル・イメージを取り入れた風景画を描くようになるが、すでにこの絵にその手法が取り入れられている。恐るべし19歳。

いよいよ彼のシュルレアリスム時代の幕開けとなる作品「子ども、女への壮大な記念碑」(上のポスターの写真参照)。1929年だから24、5歳のときの作品。以後、30代にかけての作品には引き込まれるものが多い。
抽象画はわけがわからなくて「ハテ何をいいたいんだろう?」(別にいいたいことはないのかもしれないが)と思うことが多くて苦手だが、シュルレアリスムは一応具象画なので何となくわかる。
ダリの作品は見ているといろんな想像が膨らみ、いつまで見ていても飽きない。

映像作品もおもしろかった。
ルイス・ブニュエルと共同で制作した「アンダルシアの犬」(1928年)と、ウォルト・ディズニーとコラボしてつくったアニメーション作品「ディスティーノ(運命)」(1945年につくられたが未完に終わり、2003年に完成)。
ただ「アンダルシアの犬」はグロテスクなシーンがあり、そのたびに座っていた人ががまんできずに席を立っていた。

広島・長崎への原爆投下に衝撃を受けて描いたといわれる「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」も出品されていた。
しかし、そこで描かれているのは爆発による閃光と立ちのぼる煙、アメリカを象徴する野球選手たち、中央の人間の頭部らしきものの中には爆撃機が爆弾を投下している様子などで、無差別爆撃の被害者たちの悲惨な姿はない。
ダリは人々の悲惨さより、原爆という巨大な破壊エネルギーをつくり出したアメリカの科学力に驚嘆したのだろう。
しかし、ピカソは「ゲルニカ」で、逃げまどい苦しみ泣き叫ぶ人々の姿を描くことでドイツ軍による無差別爆撃を非難した。
この違いは大きい。

なお今回の展覧会は、ガラ=サルバドール・ダリ財団(フィゲラス)、サルバドール・ダリ美術館(フロリダ州セント・ピーターズバーグ)、国立ソフィア王妃芸術センター(マドリード)という世界の3つの主要なダリ・コレクションからの作品を中心に、国内所蔵の作品を加えて展示作品は約250点にものぼり、日本では約10年ぶりとなる本格的な回顧展という。

ただ、ニューヨーク近代美術館所蔵の有名な作品「記憶の固執(別名・柔らかい時計)」(1931年)はなかった。