善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

「らんまん」が熱い!

ただいま放送中のNHK連続テレビ小説「らんまん」。

幕末から明治・大正・昭和の激動の時代、植物学者・牧野富太郎をモデルに、愛する植物のために情熱的に生きた槙野万太郎の波瀾(はらん)万丈な生涯を描いているが、作者の長田育恵さんの脚本が熱い!

観ているこっちも熱くなる!

「らんまん」が描いているのは、単なる植物オタクの生涯ではない。

牧野富太郎が活躍したのは、日本が欧米に追いつき追い越せと富国強兵に力を入れ、軍国主義帝国主義の国になっていく時代。

欧米列強から不平等条約を押しつけられた日本は、日清、日露の戦争をへて、今度は欧米にまねてアジアの諸国に不平等を押しつけるようになっていく。

作者はその時代の日本の「危うさ」を私たちに伝えようとしている。

植物学とは、社会とは無縁の単にアカデミックなだけの学問にあらず!

 

先週の回では、日清戦争で勝ったと浮かれる軍人たちの姿に重ねて、槙野万太郎にこう言わせている。

「みんなに花を愛でる思いがあったら、人の世に争いは起こらんき」

 

そしてきのうまでは「オーギョーチ」と題する週。

一時は追われた東京帝大に助手として迎えられた万太郎(神木隆之介)は、7年ぶりに植物学教室へと戻った。大学では、植物の分類ではドイツなど先進ヨーロッパ諸国に負ける、というので、顕微鏡の奥の世界を解明しようと、波多野(前原滉)と野宮(亀田佳明)が手を組み、イチョウとソテツの精子を発見しようとしていた。

万太郎の研究は古いと大窪(今野浩喜)に言われたが、万太郎は自分のやり方を変えるつもりはなかった。

そんなある日、万太郎は学術調査団の一員として台湾へ派遣されることになる。

 

史実でも、牧野富太郎は1896年(明治29年)10月、調査団の一員として台湾に向かい、約2カ月間、北は基隆(キールン)から南は高雄(カオシュン)まで、台湾を縦断するように植物の調査や採集を行ったという。

台湾に渡る際、牧野は護身用としてピストルと銃弾を携行している。

日本は日清戦争の結果、1895年、下関条約によって台湾を日本の領土にし、台湾の情勢を調べる必要に迫られて調査団を派遣。その中で、植物担当の学者として選ばれたのが牧野だった。

その当時の台湾の治安は悪かったらしく、牧野はピストルを携行したのだった。

しかし、ドラマの中で作者の長田育恵さんは、槙野万太郎はピストルは携行せず、代わりに彼がつくった植物図鑑「日本植物誌図譜」を持っていったことにしている。

陸軍省の役人から「これは国力増強のための調査。国益となる植物をしっかり調査してくるように」といわれ、助教授からも「槙野、軍人には楯突くな。今、お前は個人じゃない。帝国大学の人間だ」といわれた万太郎は、家に帰って妻の寿恵子(浜辺美波)にこう言う。

「軍からピストルを買えといわれた。しかしわしは、軍の命令には反するけんど、持って行かんと思っている。寿恵ちゃんもそれでええやろ?」

寿恵子は答える。

「わかりました。ピストルは持っていかないでください。でも、せめて別のものは持っていってください」

そういって彼女が差し出したのは「日本植物誌図譜」であり、これをお守りに持たせ、台湾に送り出す。

そして、台湾に渡った万太郎は、日本からの調査団に不信感を抱く台湾の人々と出会ったとき、彼が持っていった「日本植物誌図譜」を見せることで、互いの心をかよわせ合うことができたのだった。

 

万太郎は台湾で新種の植物「愛玉子(オーギョーチ)」を発見。帰国後、その植物に「Ficus awkeotsang Makino」という学名をつける。

Awkeotsangは台湾語の発音「オーギョーツァン」からつけられたもので、「これ以上ふさわしい言葉はありません」と万太郎。

ところが、学名を記した報告書を見て、東京帝大の助教授は烈火のごとく怒ってこう言う。

「報告書は陸軍省に提出するんだ。現地の言葉は消せ。国に逆らう気か!」

日本は日清戦争の結果、台湾を植民地化し、台湾の人々に日本語を使うこと強要した。

国家の代表である帝国大学の植物学者が植民地の言葉を学名にするなんてありえない、というわけだ。

万「わかっちょります。国が言葉を押しつけるがは。だけどわしは、永久に留めるんです。学名として。学名の発表者はわしですき、ほかの誰も手出しはできません」

助「ふざけるな! わが植物学教室は(イチョウ精子を発見してドイツにも勝って)今、植物学の頂点に立ったんだ。同じ研究室で、助手のお前がこんなつまらんまねを!」
万「つまらん? 大事なことですき。日本から出て、初めてわしも知りました。戦の跡も見ました。木々に弾痕が残っているのも。人間の欲望が大きくなりすぎて、繊細なものは踏みにじられていく。じゃけどもわしは、守りたい。植物学者として後の世まで守りたい」

助「教授を裏切る気か!」

万「わしは植物学に尽くす。ただそれだけです。この旅でやるべきことがよくわかりました。どこまでも地べたを行きますき。人間の欲望に踏みにじられる前に、すべての植物の名前を明らかにして、そして図鑑に永久に刻む」

 

あすからの「らんまん」は第23週「ヤマモモ」。

どんな展開が待っているだろうか。