善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

通し狂言 神霊矢口渡

きのうは国立劇場で「11月歌舞伎公演 通し狂言 神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」を観る。

平日だからか、地味な話だからか客席はポツポツ空席が目立つ。
座ったのは前から2番目の席。花道からは遠かったが、それでかえって花道を行く役者の姿がよくわかるし、舞台も多少斜めからの方がよく見えた。
吉右衛門がプロンプターに助けられていたのもよくわかったが・・・。
初日から8日目だが、100何年ぶりの上演というのでセリフを覚えるのも大変なんだろう。

作・福内鬼外(ふくちきがい)はペンネームで、平賀源内のこと。もともと人形浄瑠璃として作られた作品で、本場の大阪とは趣の違う江戸浄瑠璃といえようか。
江戸浄瑠璃だから登場人物はすべて関東の人間。

序幕「東海道焼餅坂の場」、2幕目「由良兵庫之助新邸の場」、3幕目「生麦村道念庵室の場」、大詰「頓兵衛住家の場」
出演は吉右衛門歌六又五郎歌昇、種之助、米吉、橘三郎、桂三、錦之助芝雀東蔵ほか。

1794年の初演で、現在よく上演されるのは大詰の「頓兵衛住家の場」であり、序幕は109年ぶり、2幕目は100年ぶり、3幕目は119年ぶりの復活上演という。

話は軍記物語の「太平記」を題材にしていて、新田義貞の子、義興が足利方に裏切った矢口の渡しの船頭、頓兵衞の計略で溺死したことにはじまり、遺族たちのその後の物語を描く。

前半は足利尊氏に降伏したかにみえた兵庫之助が、敵方に仕える素振りを見せながら新田家存続のために忠義を尽くす話で、後半は、頓兵衞の家に一夜の宿を求めた義興の弟義峯に対して、頓兵衞の娘のお舟が一目惚れしてしまい、強欲で極悪非道の父親から義峯と義峯の恋人のうてなを救う悲恋物語

見ていて、前半と後半はまるで別の物語と感じた。吉右衛門は兵庫之助の役で、御家存続のためにわが子を犠牲にしてしまう役どころ。その鬼気せまる演技は見事というほかない。仁左衛門もいいけれど、どこか和事っぽいところがあるが、吉右衛門の豪胆さもいい。
だが、吉右衛門が出るのは前半だけで、後半はまるで別の話になっている(まあ新田一族の話には違いないが)。

やはり見どころは大詰の「頓兵衞住家の場」だった。
ここでの主役はお舟を演じた芝雀。かわいくて、切ない演技が見事。最後の人形ぶりに引き込まれる。
来年の雀右衛門襲名に期待が高まる。
極悪非道の頓兵衞に歌六、義峯に歌昇又五郎の長男)、恋人うてなに米吉、下男の六蔵に種之助(又五郎の次男)。
歌昇、種之助が意外とよかった。歌昇は平成元年生まれだから26歳、種之助は平成5年生まれの22歳。若い2人のこれからが楽しみになった。