善福寺公園めぐり

善福寺公園を散歩しての発見や、旅や観劇、ワインの話など

名橋たちの音を聴く

きのうの午後は2時から「都市楽師プロジェクト」主催の「名橋たちの音を聴く」コンサートへ。
場所はナント、東京のド真ん中、日本橋のたもとから出航する日本橋川の船の上。

日本橋川神田川から分流して隅田川に流れる川。ということは、神田川善福寺川とつながっているから、毎日のように散歩する善福寺公園からの水がここまで届いていると思うと、なぜかウレシイ気がしてくる。

今まで知らなかったけど、日本橋川にかかるお江戸・日本橋のたもとには「船着場」があり、ここから都内の「水の道」をめぐるクルーズ船が出航しているのだとか。
この日のコンサートも、30人乗りの船を借り切って行われる。

そもそも「都市楽師プロジェクト」ってどんな団体なのか、なぜ船上のコンサートなのか、しかも日本橋の。

主宰するアートディクレター・デザイナーの鷲野宏さんによると、中世からルネサンス期にかけてヨーロッパの各都市には、塔から時を告げるラッパを吹いたり、祝祭や行列などのイベントで演奏したり、「街の必要に応じて」活躍した音楽家たちがいて、彼らのことを「都市楽師」と呼んでいたそうだ。
それを現代に生かした形でよみがえらせ、音楽を通じて街や建築の魅力を再発見する取り組みを行っているのが「都市楽師プロジェクト」、ということらしい。

なるほど、音楽はコンサートホールという閉じられた空間の中だけでやるものではない。
むしろ本来、音楽は野外にあっただろう。風の音、木々のざわめき、鳥のさえずり、遠くの人の声。いろんな音が交わる中で奏でられる音楽こそ、本当に「音を楽しむ」ことかもしれない。

この日の演奏は、1600年ごろのイタリア音楽を中心に演奏活動をしている声楽家の辻康介さんの歌、ルネッサンスリコーダーという古楽のためのリコーダーを奏でる太田光子さんのリコーダー。
それだけでなく、演奏の合間にサウンドスケープ研究家の鳥越けい子さんによる「都市の音遊び」解説、そして鷲野さんによる橋やまわりに立つ建築物(日本銀行本店とか江戸城石垣など)の解説もある。
鳥越さんは青山学院大学総合文化政策学部教授で、サウンドスケープ研究の第一人者。日本サウンドスケープ協会理事長もつとめている。そんな人の解説だけに、中身が濃い。

いよいよ出航すると、日本橋から西河岸橋、一石橋、常磐橋、江戸橋といった日本橋川にかかる橋の下をくぐりながらの演奏が始まる。
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するとどうだろう、今まで騒音だと思っていたクルマの音をはじめとする雑踏の音が、リコーダーや歌声と交響して聞こえてくるではないか。
騒音も実は街の音であり、それは「音の風景」の1つであったのだ。

常磐橋の下で太田さんが「イギリスの夜鳴きウグイス」という曲をリコーダーで演奏したとき、聴きながら不覚にも涙がじわっとこぼれてしまった。それくらい感動したのである。
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リコーダーや歌の響きもすばらしいが、街の音との交響がすばらしいのであり、それだけでなく、川面からながめる都市の風景の中で聴く音楽がすばらしいのではないか。

それと、なるほどな、と思ったのは、リコーダーの太田さんは演奏中、強い風が吹くとクルッと向きを変えて風に背を向けて吹いていたこと。
風に向かってリコーダーは吹けない。つまり音楽は物理現象でもあるのだなと、なぜかあらためて感じ入ってしまった。
ということは、聴く方も、雑踏の中で響く音の調べを聞き分けるしっかりとした耳(つまりは脳)を持っていないといけないわけで、“聴く力”が求められてもいるんですね。
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